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約の翼
ベリアルの力
扉の先に広がっていたのは、目も眩むほどの豪奢な宮殿だった。磨きあげられた大理石の床には、鏡のようにはっきりと自分たちの姿が写っている。
敷かれた絨毯は血を溢したかのような深く鮮やかな赤で、金糸の刺繍が施されていた。

つられるように上を見ると、天井から吊るされた水晶のシャンデリアがほのかな光を放っている。

「悪趣味だな、ホントに……」

紅玉が嵌め込まれた黄金の支柱に手を当てながらハロルドが呟く。ベリアルが作り出した空間は正に贅の限りが尽くされていた。
異国情緒溢れる宮殿は、ラクレイン王国で見られるような建築様式ではない。

ハロルドが悪趣味だ、と言ったのは宮殿の作りに対してではない。
こんな場所を用意したベリアルに対してだ。

「これもベリアルの力でしょうか……」

「そうさ。全てはまやかし、幻に過ぎない。だがこれほど安定した空間を作るとは、流石は音に聞こえし『炎の王』ってことだろう」

探るように辺りを見回すシグフェルズに、ルーファスが全く緊張感のない声で答える。
この宮殿はそもそもベリアルが作り出したもの。大理石の床も真紅の絨毯も、シャンデリアも全てまやかしだ。

そもそも空間を新たに作り出すこと自体、人間からすれば馬鹿げているのに、高位の悪魔は簡単にやってのける。
本来、空間はとても不安定だ。だというのに、この空間は驚くほど安定していた。

これほどまでに安定した空間を作り出した上に、宮殿を作るのは、高位の悪魔の中でも一握りだろう。

「それで、進まないの? 猶予はないんでしょう? こんなところで油を売ってる暇はないと思うけど」

ノルンは呆れたように異端審問官の二人を見た。戦いになるかもしれないというのに、緊張感が無さすぎるではないか。本当に彼らは歴戦の異端審問官なのかと疑いたくなる。

「ま、それはそうだけどね。ちゃんと確認しとかないと、帰る時困るでしょ?」

そんなノルンをハロルドがまあまあ、と宥めた。彼女の気持ちも分かる。シグフェルズの命が掛かっているのだから、気が急くのも当然だろう。
しかしこのまま突っ込むのはあまりに無策過ぎる。それにここはベリアルが作り出した空間だ。何が起こってもおかしくない。そのためにも空間を調べておかなければ、何かが起こった時の対処も出来ないだろう。



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