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約の翼
置いていかれる辛さ
「ノルン……」

「シグフェルズさん、ノルンさんは貴方のことを大切に思っているからこそ、共に行きたいと言われているのですよ。例えそれが相手を想う故の行動であっても、置いていかれるのは、とても辛いですから……」

そう言ったミシェルは必死で痛みを堪えるような顔をしていた。まるで、置いて行かれる辛さを知っているかのように。ミシェルの言葉にシグフェルズは口ごもる。

置いて行かれる辛さはシグフェルズもよく分かっていた。両親が死に、兄も姿を消したあの時に。
両親に、兄に置いて行かれることが何よりも辛かった。

「……分かった。一緒に行こう、ノルン」

「勿論。絶対にシグを死なせないから」

諦めたように、だがどこか安堵した笑顔を作るシグフェルズ。絶対に死なせない、その一言を聞いた彼の顔が泣きそうに歪む。

「シグフェルズさん、ノルンさん。ルファがアルドさんの居場所を突き止めました。彼はどうやら、ベリアルが作り出した空間にいるようです。アルドさんが正気でいられる時間も分かりません。事態は一刻を争います」

一転して真剣な表情となったミシェルは、ルーファスがアルドの居場所を突き止めたことを語った。彼がいるのは現世でも地獄でもない。
ベリアルが作り出した空間。
ベリアルの支配が弱まった理由はミシェルにも分からない。

一筋の希望を見せ、シグフェルズを苦しめるためなのか。しかし何にしても彼が“アルド”でいられる時間はそう多くないだろう。
事態は一刻を争う。彼が彼であるうちに終わらせなければ。

「“道”は私が作ります。私が貴方たちのために出来ることはそれくらいでしょうから」

「ミシェル様……」

天使であるミシェルには現世で動くに当たっても様々な制約が付きまとう。
振るえる力にも限界があるのだ。

「そのためにオレたちがいる」

「異端を滅するだけでなく、迷える魂を導くのもまた聖職者の役目」

背後から投げ掛けられた声に振り向けば、ハロルドとルーファスの姿があった。首から下げた銀色の十字架が陽光に煌めく。

「ハロルド……、マクレイン司教」

「ノルンちゃんならそう言うと思ったよ。力、アテにさせてもらうから」

複雑な表情で二人を見つめるノルンに、ハロルドは片目を瞑って無邪気に笑って見せた。



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あきゅろす。
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