誓約の翼
シグフェルズと共に
ノルンは一人、大聖堂に続く回廊を歩いていた。他でもないミシェルに会い、決意を伝えるためだ。
誰が何と言おうが、ノルンはシグフェルズと共に行くつもりだった。
だが部屋を出て早々、ノルンは悩むことになる。ミシェルがどこにいるか分からなかったからだ。
彼は表向きは、アルノルドつきの聖職者となっているが、本来は人ですらない。
大天使ミカエル。その名の意味は『神に似たるもの』。
ノルンどころか人間の前にすら現れない存在である。
ハロルドやあるいはルーファスに聞けば分かるかもしれないが、生憎こんな時に限ってハロルドは現れない。
ルーファスに至っては論外である。
そこであてもないノルンは、大聖堂を目指していた。
しかしラクレイン王国最大の聖堂であるため、兎に角広い。だがノルンの予想に反して、聖堂内には誰もいなかった。
いや、誰かいる。深紅の絨毯の踏み締め、ステンドグラスの光を浴びる彼は、身に纏う白の聖衣と相まって、まるで天の使いそのものであるかのよう。金の髪は光の滝のように背中を流れ、キラキラと輝いている。
「ノルンさん」
「……ミシェル様。お願いがあって来ました」
振り返った彼――ミシェルはノルンの姿を認めて微笑んだ。ノルンは真っ直ぐにミシェルの青い瞳を見据える。
「私もシグと共に行かせてください。お願いします」
「……ベリアルと相対した貴女にならお分かりだと思いますが、ベリアルの契約者である彼は凄まじい力を有しています。彼の意思がどうあれ、戦うことになるかもしれません。それでもですか?」
頭を下げるノルンに、ミシェルは痛みを押し殺したような表情で尋ねる。
本気を出していなかったとは言え、ベリアルは凄まじい力を有していた。ノルンたちが死を覚悟するほどに。
そしてベリアルの契約者であるアルドも魔力、身体能力共に人を越えている。
彼の意思がどうあれ、アルドは今までベリアルに操られていた。
最悪、アルドと戦うことになるかもしれない。そうなれば当然、命の保証は出来ない。ミシェルはそう言いたいのだろう。
「はい。……私はシグを一人にしないと約束しました。だから、どんな結末であっても見届けます。シグと一緒に」
死ぬかもしれない。そう思っても不思議とノルンの心は澄んでいた。
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