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約の翼
異端審問官の役割
だが次に顔を上げたミシェルは静かな声音で告げる。
彼は先程まで憂いを帯びた表情を浮かべていたとは思えないほど真剣で、それでいて何者をも寄せ付けない、凛とした顔をしていた。

「ルーファス、ハロルド。アルドさんに戦う気がないとは言え、彼はベリアルの契約者。注意して下さい」

アルドに戦う気はない。それはミシェルも分かっている。しかし今の彼はベリアルの契約者。
その魔力、身体能力共に人の域を越えている。

ベリアルは狡猾な悪魔だ。これを見越して、何か手を打っていても不思議ではない。
むしろ何かあると考える方が自然だろう。

『炎の王』を、『虚偽と詐術の貴公子』を甘く見てはならない。あれは正に“悪魔”。
堕ちるべくして堕ちた天使である。

「心得ております。我らは異端審問官。女神に仇名す者を例外なく狩るのが役目」

「……ルファ。彼は女神に仇なす者じゃない」

薄い笑みを浮かべて歌うように言うルーファスを、ハロルドが嗜める。アルドはベリアルの契約者ではあるが、女神アルトナに仇なす存在ではない。
するとルーファスはさも可笑しげに言う。

「……何を言ってるんだ? 契約者は『魔』。『俺たち』の敵さ。違うか、ハロルド?」

「違う。オレたちの敵はベリアルであって彼じゃない。確かに契約者は魔だ。けど、『アルド・アーゼンハイト』は魔ではなく、人だ」

ルーファスの菫色の瞳から、彼の真意を探ることは出来ない。ルーファスが言うように、自分たち異端審問官は魔を狩ることを使命としている。
だがアルドは『魔』ではない。しかしルーファスから返って来た言葉は、ハロルドの予想に反するものだった。

「違うだろう? 例え人であっても、女神に仇をなすものは狩る。それが異端審問官さ」

「ルファ!」

「二人ともそこまでにして下さい。ルファ、いえ、ルーファス。アルドさんは『魔』ではありません。“私”が保証します。貴方はハロルドと共にシグフェルズさんの助けになるのです。頼みましたよ」

二人の間に割って入ったのは、ミシェルだった。アルドは魔ではなく、救うべき魂である。
頼みましたよ、と言うミシェルに、ルーファスは笑みを深めて頭を垂れた。

「お任せ下さい。……そんな顔するな。少し試しただけなのに」

「……それが余計なんだよ、ルファ」

神妙に頷いたルーファスは一転して困ったように笑う。そんな彼を見て、ハロルドは深いため息をついた。



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あきゅろす。
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