誓約の翼 魂の行方 ルーファスにとって、アルドの魂を辿ることはそれほど難しいことではない。いくら空間を隠蔽したとしても、魂を辿れば簡単だ。 意識さえ集中し、見失なわないようにすれば。 悠然と空を飛ぶルーファスの背には光の翼があった。 透き通るような菫色のそれは、魔術によって作り出したもの。 シェイアードを出て、どれくらい経っただろう。アルドの魂がかき消える。正に一瞬の出来事だった。ベリアルは僅かな空間の歪みを基点として、別の空間を作り上げていたのだ。 ルーファスが歪みに手をかざした瞬間、ばちっ、と火花が飛び散った。 凄まじいほどの拒絶の力。間違いなくベリアルのものだ。触れた指からは鮮血が零れ落ちる。 「……これは楽しめそうだ」 声を上げてルーファスは笑った。心から楽しげに。強者との戦いを待ちわびる自分と、哀れな魂の解放を願う自分。その二つの思いがせめぎ合っている。 どちらが本当であるかなどない。どちらもまた、ルーファスなのだ。 今自分に与えられた命は、アルドの肉体がどこにあるのかを探ることであって、戦うことではない。ルーファスは流れ落ちる血を拭うと、身を翻してシェイアードに引き返した。 ルーファスが教戒に戻る頃には、東の空が明るくなりはじめていた。音もなく着地すると、彼の背にあった翼が消える。そんなルーファスを出迎えた人物。それは他でもないミシェルとハロルドだった。 「どうでしたか、ルファ?」 「勿論、見つかりましたよ。ベリアルは僅かな空間の歪みを基点として、新たな空間を作り上げていたようです」 ルーファスは二人に見た全てを話した。ベリアルの動きが制限されていることから、こちら側からこじ開けることも可能だろう。 「ありがとうございます。ルファ、手を」 何かに気付いたのか、ミシェルはルーファスの手を取る。先程ベリアルが作り上げた空間に手を触れた時に出来た傷だ。それが淡い光が生まれたかと思うと、一瞬にして塞がっていた。もう痛みも感じない。 「申し訳ありません。お手数を……」 「いいえ、気にしないでください。私にはこんな事しか出来ないのですから」 天使であるミシェルに詠唱は必要ない。この程度の傷ならば、瞬く間に治すことが出来るのだ。それでも彼の表情は暗かった。 [*前へ][次へ#] [戻る] |