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約の翼
愚かな子供
 私には何一つ自由なんてない。力という鎖に縛りつけられた愚かな子供。それが私だ。力を望んだ訳ではない。なのに平凡に生きることは許されなかった。
 強大な力を持つ者には、責任と制約が付き纏う? 糞くらえだ。だから私は“全て”を諦めた。何をしたって、どう足掻いたって無駄なのだから。


 闇の中に一筋の銀の軌跡が走る。神の祝福を受けた聖杖は。鮮やかに悪魔の体を両断した。あまりに一瞬の出来事に、断末魔の悲鳴すら上げる暇もない。虚空に消えて行く闇色の粒子を見上げながら、女は銀色の杖――バクルスの武器化を解いた。すると役目を終えた杖は十字架に戻る。

 見上げた彼女は女と呼ぶには少々若い。せいぜい十六、七歳だろう。闇の中に浮かび上がる白磁の肌、すらりと伸びた肢体。
薄く紫掛かった白雪を思わせる銀の髪は、まるで銀冠のように少女を彩っている。象眼された宝石のようなラピスラズリの瞳は、吸い込まれてしまうのではないのかと錯覚させる。
 誰もが思わず見とれてしまいそうな美貌だったが、彼女が浮かべる表情のお陰でどこか冷たいような雰囲気を与えていた。
 くだらない。本当にくだらない。どうせ私には選択肢なんてないんだから何をしても同じだ。だから私は全てに諦めて絶望しているのだ。

 少女はさっさとその場を去り、いつものように報告を済ませてその足で食堂に向かう。彼女が食堂に入った時、殆どの者が席についていた。
皆同じように白糸の刺繍が施された悪魔祓いの見習いを示す黒い聖衣を身につけており、中には同じデザインの、こちらは白地に黄糸の刺繍がされた聖衣を纏っている。

 食堂全体は見渡すほどに広く、高い天井に部屋の端から端まであるような大きなテーブルがいくつも置かれている。少女――ノルンもまた空いている席に腰掛けた。
 瞬間、周囲から囁き声が聞こえてきたが、当然のごとく無視。短い祈りを終えて黙々と用意された食事を口に運んだ。

 ノルンたちが暮らすこの世界、シルヴァニスの全ては、精霊因子《エレメント・ファクター》で構成されているという。
 そしてこの食堂にいる殆どの者が、世界を構成する精霊因子を視認し、己の魔力によって集束させるという異能の力、魔術を操る扱う者たちだ。その力を持つのはおおよそ二千人に一人。

 何故、この場にいる殆どが異能の力を持つ者たちなのかというと、答えは簡単だ。ここは異能の力を扱う者たち――魔導師を育成する機関の一つ、教戒だからである。簡単な食事を終えたノルンは、最後の祈りを終えると、最後まで囁きに耳を傾けることなく立ち上がった。



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