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約の翼
各々が背負うもの
 柔らかに降り注ぐ月の光が頭上の硝子を通って庭園全体を照らしている。シグフェルズはそこで何をする訳でもなく佇んでいた。ここは心が落ち着く。
 今考えれば恥ずべきことだ。感情に任せて彼女に言ってしまった。これからペアを組みというのに最初からこれでは先が思いやられる。
 シグフェルズはため息をついて空を仰いだ。
 
『これはただの嫉妬だ。醜い僕の』

「……アーゼンハイト」

 誰もいるはずのない、貸し切り状態である空中庭園に自分以外の誰かの声が響く。驚いて声がした方を振り向けば、そこには最悪の別れ方をしたはずのノルンの姿があった。
 初めて見た時のような冷たい顔でもなく、様々な感情の入り交じった、とても一言では言い表せない複雑な表情をしている。

「アルレーゼ……さん」

 何故彼女がここにいるのか。そこでシグフェルズはある考えに行き着いた。ハロルドである。大方、彼がこの居場所を教えたのだろう。

「その……上手く言えないけど、私は何も分かっていなかった。アーゼンハイトのこと、ハロルドから聞いた。ごめん、なんて言う資格も私にあるかどうかなんて分からないけど」

 力を疎ましく思うだけで捨てたいとばかり願っていた。何て自分勝手な思いだったのだろう。例え望まなくても、力を手にした者にはそれ相応の責任がある。
 ノルンはそれさえも否定し続けていた。自らが望んだ力ではないからと。
 シグフェルズのような人の思いなんて考えたことすらなかった。自分一人が苦しいんだと俯いて、前を見ないようにして自分の世界に閉じこもった。
 ハロルドの言う通り、このままではいけない。

「その、僕も謝らないと。ハロルドさんから聞いたよ。君のこと。何も知らないのは僕の方だった」

 何の変哲もない、だがそれ故に満たされた毎日は五年前、脆くも崩れ去った。
 ノルンの家族が悪魔祓いから逃げ出した悪魔に襲われた時、彼女は聖人としての力を覚醒させた。
 後に駆け付けた悪魔祓いたちが見たのは、一瞬で悪魔を消滅させた神々しい輝く翼を背負う少女だったという。
 
 事態はそれで収まらなかった。
 聖人としての力を覚醒させた者は本人の意思とは関係なく、教戒の保護下に置かれる。ノルンも家族と引き離され、悪魔祓いとなることを運命付けられた。彼女が自分の力を嫌う理由ももっともだ。



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あきゅろす。
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