誓約の翼
残された時間
ファクター・デバイスの人工の光ではなく、あたたかな蝋燭の光が部屋の中を照らしていた。オレンジ色の光に照らされるのは四人の男だった。色や意匠は僅かに異なるが皆、聖衣姿である。
「彼の様子はどうだ?」
金茶色の髪の男――アルノルドはワインレッドの髪をしたハロルドに視線を向ける。名を言わずとも彼が誰を指しているかは、ここにいる者なら分かりきっていた。
ハロルドは少し考えた後、ありのままを口にする。
「正直、咎の烙印を侮っていたかもしれません。進行が早過ぎます。茨の刻印が……」
ハロルドは昼間見た光景をここにいる三人に聞かせた。シグフェルズの咎の烙印を中心に表れた黒き茨の刻印。それが全身に至れば彼の命は失われるだろう。
残された時間はもう多くはない。
「咎の烙印には私たちの力も及びません。それが咎の烙印の性質ですから」
憂いを帯びた表情で窓の外を見つめているのは青年、だろうか。長い金髪に天上を思わせる青の瞳。中性的な美貌は女にも見え、男にも見える。声もどちらかと言えば女性に近い。その人物――ミシェルが纏う聖衣は白ではあるがシスターの物とは違う。ならばミシェルは彼、なのだろう。
「急がねばいけないようですね。ですがベリアルは現世にはいないようです。いかが致しますか?」
次に口を開いたのは、ミシェルの傍らにいた青年だ。年の頃はミシェルより僅かに上。ハロルドと同じくらいだろう。大粒のサファイアのような瞳に、闇の中でもほのかにきらめく青銀色の髪を緩く三つ編みにして左肩に流している。
彼――ラファエルの容貌もまた整っており、ミシェル同様何か神懸かり的なものが感じられた。
ベリアルほどの大悪魔がぴたりと動きを止めた。それは一つの可能性を示唆している。
「……ベリアルは動かないのではなく、動けないのでしょう」
「……魔王ルシファー」
ハロルドの呟きにミシェルは無言で首肯する。ベリアルは悪魔の中でも高い地位を持っている。そんな彼を従わせることが出来るのはひとりしかいない。
魔王ルシファー。魔界の王にして、かつて最も美しい天使と謳われた天使長。
「呪いの進行を止めるしかない」
「ですが、魔力を持たぬ身で聖人と悪魔の力に耐え切れますか?」
アルノルドの言うことはもっともだ。だが果たして、彼の体が耐え切れるかどうか。ハロルドやアルノルドの聖人の力を用いれば、呪いの進行を遅らせることは出来るだろう。
しかしそうなれば彼は聖と魔の力を内包することになる。聖人でもなく、魔力も持たない彼の体が強大な力に耐えられるかどうかも分からない。
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