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約の翼
忘れられない
「俺は別にあんたたちに関わるつもりはなかった。けど、ラケシスの望みだからな。それに悪魔を相手にするんだろ? 協力者は一人でも多い方がいい」

椅子に腰掛け、視線を写真立てからシグフェルズに変えたクロトはつっけんどんにそう言った。だがそれが実は照れ隠しで、本当は面倒みがいいことをシグフェルズは知っている。
自分が言えたことではないが、きっと不器用なのだろう。

「……フォルスター」

「クロトでいい。俺もシグって呼ぶから。で、何があったんだ?」

何かあったと言われれば返答に困るのが正直なところだ。話すのなら一から、つまり三年前から話さなければならない。

契約者となった兄、兄が両親を殺したこと、そして兄と契約した大悪魔ベリアル。
まごついているとクロトが無言でシグフェルズの腕を掴んだ。

「……クロト?」

腕を掴んだまま、彼は微動だにしない。彼のアイスグリーンの瞳には何も映ってはいなかった。
それから十数秒、クロトは目を閉じてため息をつくと、再びまぶたを上げた。

「……すまない」

「え、えーっと……」

腕を離し、突然謝ったクロトにシグフェルズは何が何だか分からず目を白黒させる。
何故、彼は自分の腕を掴んで謝ったのか。

「……俺にもラケシスのような力がある。と言っても魔眼じゃない。俺は他人の心が読めるんだ」

クロトはとつとつと話してくれた。
生まれながらに持っている力のことを。今は片方の耳につけた緑柱石の魔具で力を抑えているため、他人に触れて意識を集中しなければ心は読めないという。

だが前は己の意思とは無関係に周囲の人間の心を読んでしまったらしい。
彼のラケシス以外の人間にたいする頑なさや、冷たさは心を読むという力のせいだろう。

「ごめん、嫌なこと言わせた」

自分の力について語るクロトはとても悲しげな顔をしていた。
それを他人に打ち明けることがどんなに恐ろしいことなのか、シグフェルズには想像することしか出来ない。

「いや、謝るのは俺の方だ。全部“視えた”から」

彼のいう全部は文字通り、全てなのだろう。三年前、兄が悪魔と契約し、両親を殺したこと。それから身寄りのなかった自分が孤児院に預けられたこと。
そしてこの身が呪いに侵されていることまで。

「こっちこそ、嫌なものを見せたと思う。……あれはとても気持ちのいいものじゃないから」

見えたというのなら、兄が両親を殺した場面も見えたのだろう。シグフェルズはまともにクロトの顔を見れずにいた。あの日から目に焼き付いて離れない。父と母の死に様が。
クロトにすれば不快だったはず。シグフェルズがいつも思い出すのは、優しかった二人ではない。無残に殺された最後の姿。それはきっと、一生忘れることは出来ないだろう。



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あきゅろす。
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