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約の翼
変わるべき時
「それに……もういいんじゃない? 君が自分自身の足で歩き出さなければ、世界は変わらない。世界は君が思うほど、捨てたものでもないさ。だから……」

 自分の世界に引き込もっていても、自分を取り巻く世界は変わらない。己の意思で歩き出さなければ、何も変わらない。世界は優しいだけではない。残酷でもある。
 だがそう捨てたものでは無いとハロルドは思うのだ。ハロルドが言ったところで、急に全てを理解出来るものでもないだろう。
 それでも誰かが言ってやらなければ、彼女はその一歩すら踏み出せないかもしれない。

「……分からない。私にとって世界は残酷なだけで優しくなんてなかった」

 まさしくそれは、ノルンが初めて他人に明かした本心だった。ずっと自分の世界に閉じこもって来た。与えられる全てを否定して、与えられることさえ諦めて。
 ノルンは結局、自分のことしか考えていなかったのだ。人にはそれぞれ違う事情がある。ノルンが力を望まなかったようにシグフェルズが力を求めた理由も。

 だけど、それが分かったからと言って何をするべきかなんて分からない。
 他人との接し方も、シグフェルズに何て言うべきかも。

「大丈夫なんて言うのは無責任かもしれないけど、こればかりはノルンちゃんの問題だからね。ただ一つ言えることは、物事なんて見る角度で捉え方は違って来る。世界は確かにノルンちゃんに取って残酷かもしれない。だけど、一歩踏み出してみれば、その見方も変わるかもしれないよ? あ、シグなら西棟の空中庭園にいると思うから」

 ハロルドに言われてもまだ、どうすれば良いかなんて分からなかった。
 でもシグフェルズに会わないといけない。その思いだけはすんなりと心に入って来た。
 一歩踏み出すことは難しいのかもしれない。だけど半歩くらいなら踏み出せるかもしれない。

「……分かった。まだ私の中で答えは出ないけど、このままじゃいけないことくらい分かってる。ありがとう」

 いつも険しいと言うか、冷たい印象を与えるノルンの表情が一瞬、和らいだ。ややつっかえながらもハロルドに礼を言うと、どこか吹っ切れたような顔で走り出す。
 ノルンを見送ったハロルドはふっと笑い、まるで年寄りのように呟いた。

「若いって良いねぇ……」



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