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約の翼
本気を出せる相手
 甲高い音を立て、二本の銀色の杖が触れ合う。かと思えば一瞬で離れ、また触れ合うの繰り返し。
 バクルス同士が触れ合う度に金属がぶつかり合う特有の音が響き、火花が散った。

「なかなかやるわね」

 何度目かの鍔ぜり合いの時、ノルンは唇の端を上げ、楽しそうに笑った。ここまで歯ごたえのある相手も久方ぶりだ。授業の時は間違っても本気など出さないから、直ぐ終わってしまう。
 自分と打ち合ってここまでもったのは、シグフェルズが始めてだ。普段の生活の中で全力を出せる機会なんて限られている。
 ハロルドならノルンより腕は上だろうが、何分手合わせしたことはない。

 そしてノルン同様、シグフェルズも笑っていた。
 だが楽しいと思う反面、彼の中にある思いが生まれていた。
 卓越した武術の腕に強大な聖人としての力。それに加えて魔術の才まであるという。では何故、彼女はその力を活かそうとはしないのか。

 授業には欠かさず出席しているがいつも上の空で本当の力さえ出そうとしない。
 シグフェルズには分かる。ノルンをずっと目で追っていたのだから。自分が望んでも決して手に入れることの出来なかった力を持つ彼女を。

「そろそろ本気、見せて欲しいな」

「そっちこそ」

 ハロルドは微笑しながら、楽しそうに組み手をする二人を見つめていた。どちらも頭一つ以上、飛び抜けた力を持っているため、普通の授業では物足りないのだろう。
 ノルンとシグフェルズ、今の二人は数年前のハロルド自身を見ているようだった。ハロルドも見習いの中で飛び抜けた力を持っていたこともあり、退屈な日々を過ごしていたから。

 シグフェルズがノルンのバクルスを受け止めた直後、一瞬、ほんの一瞬だけシグフェルズは突然襲った痛みに顔をしかめた。
 その瞬間、僅かにバクルスを受け止める力が緩んだのをノルンが見逃すはずはない。力を込め、シグフェルズのバクルスを跳ね上げる。
 バクルスが光を弾いて宙を舞い、甲高い音を立てて床にたたき付けられた。

 気が付けば息が上がっていた。ノルンはバクルスから手を離して床に寝転がる。
 シグフェルズも息を整えるように何度も深呼吸を繰り返すと、同じように身体を床に倒した。

「一応初日だから今日はこれで終了ってことで。休んだらもう戻っていいよ。そいじゃ、オレは先に行くから」

 ハロルドは言うなり息も絶え絶えな二人を残し、地下室を後にした。



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