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約の翼
有り難いこと
そして、その日はやって来た。ノルンとシグフェルズ、ハロルドがアルノルドの護衛を任された日に。
その間もシグフェルズはいつも通りで、ノルンもそれほど気にしなくなっていた。

ラケシスとクロトという友人が増えたこともあるだろう。あれから積極的に話し掛けるようになったラケシスと、彼女の保護者のような幼なじみのクロト。

彼女たちもノルンと同じように特殊な力を持っているという。ラケシスの死を見る魔眼は彼女の一族が持つ力だということも教わった。

「留守番は任せてくださいね。ちゃんとお掃除して置きますから」

「三日くらいで帰ってくるから。掃除するほど汚くならないと思う」

何故かえっへんと胸を張るラケシスにノルンは静かに答える。数日ほど前に色々あって、彼女とは同室になった。理由というのも元々、この部屋はノルン一人が使っていたのだ。

見習いである悪魔祓いは男が多く、女は少ない。加えて悪魔祓いへの道は険しく、志半ばで教戒を去る者が多いため、空室というのも珍しくないのだ。

「あ、なんならクロトにも手伝ってもらいますから、大丈夫ですよ」

「それだけは止めて。お願いだから」

シグフェルズもびっくりの速さで否定したノルンに、ラケシスは眼帯をしていない方の瞳をしばたかせ、首を傾げている。
クロトが嫌いな訳ではないが、ああいうタイプは色々とあれなのだ。
そうでなくてもあの少年、ラケシスのこととなると見境がなくなる。

ラケシスの方はそんな幼なじみの過保護ぶりに気づいていないが、あれは相当だ。
彼女らの生い立ちは知らないが、その辺りに事情があるのかもしれない。

「でも、学園に行くのにその格好でいいんです?」

「さあ? ハロルドは何も言ってなかったし」

ノルンはいつもと変わらぬ黒い聖衣姿に、首からバクルスとなる銀の十字架を下げている。
いくら教戒と《学園》の対立がなくなったとは言え、まずいのではないのか。ラケシスはそう言いたいのだろう。

ラケシスにはアルノルドの護衛ということは伏せて、特別授業で《学園》に行くとだけ伝えてある。恐らくは他の見習いたちにもそう伝えられるだろう。

「じゃあ、そろそろ行ってくるから」

「はい。行ってらっしゃい、ノルンさん」

笑顔で送り出してくれるラケシスを見て、帰りを待ってくれている人がいる、それがどれだけ有り難いか、しみじみと感じたノルンだった。



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あきゅろす。
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