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約の翼
無理は禁物
「まあ、それは置いといて。背中の方は大丈夫?」

コホン、と咳払いをしたハロルドは一転して表情と声音を変えた。そんな彼に驚きつつもシグフェルズは頷く。

「ええ。痛みは少しありますが、我慢できないほどではないですし」

咎の烙印へと変化した傷は今も熱を持ち、シグフェルズを苛んでいる。だが我慢できない痛みではないし、不便を感じることもない。
ただ体に少し力が入らないことくらいだろうか。

「ならいいけど、無理は禁物だよ。ノルンちゃんに気付かれたくなかったらね。心配してたよ、シグのこと」

ハロルドにシグフェルズのことを尋ねた時の彼女はどこか元気がなかった。
思いつめているまでは行かないが、いつものノルンとは違った。
驚くべき変化と言っていいだろう。初めて会った時は自分の殻に閉じこもっていた彼女がだ。

そしてそれはシグフェルズにもいえることである。
彼は社交的で人好きもするが、他人に対して見えない壁を作っていたふしがあった。ハロルドに対しても。

恐らくは無意識にだろうが、それ故に厄介なのだ。何せ自分では分からないのだから。
そんな彼がノルンを気にしている。

「はい、すみません……」

「オレやミシェル様も探ってはいるけど、何せあのベリアルだからね。中々尻尾を出してくれないんだな、これが」

シグフェルズの呪いを解くには契約者である彼の兄が死ぬか、ベリアルを滅さなければならない。
それともう一つ、悪魔に解かせればいいのだが、これは不可能に近いだろう。

シグフェルズの前に現われてから、ベリアルは現世に姿を現した痕跡がない。
契約者の方も依然、行方は知れぬまま。
ハロルドもミシェルも手は尽くしているが、相手はあの大悪魔ベリアル。簡単に尻尾を掴ませてくれるとは思えない。

「……でしょうね。ベリアルは面白がっていましたから。僕が苦しむ所を見物でもするんでしょう」

悪趣味なことこの上ないが、ベリアルならやりかねない。兄と弟を敵対させ、更には死の呪いまで負わせた。
アルドが倒れ伏したシグフェルズを見て狂乱状態に陥った時だって嗤っていたではないか。

「悪趣味だねえ。オレには理解出来ないけど。それとシグ、具合が悪くなったら、隠さず言うこと」

こうやって釘を刺して置かなければ、この少年は絶対に無理をする。それをここ数年の付き合いであるハロルドは嫌というほど思い知らされた。シグフェルズも分かっていたのだろう。苦笑し、観念したように頷いた。



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あきゅろす。
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