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約の翼
知らないふり
ノルンと別れたシグフェルズは自室に戻るわけでもなく、ハロルドの元へ向かった。見習いとは違い、司教には個室が用意されている。
異端審問官であり優秀な悪魔祓いでもあるハロルドの部屋は広い。
ノックをしようと手を近づけた瞬間、部屋から聞こえた聞き慣れた声。

「開いてるよ、シグ」

どうやらノックなど必要ないらしい。そんなことをせずともハロルドにはシグフェルズが来たことはお見通しなのだ。
苦笑しつつもシグフェルズは失礼します、と言ってハロルドの部屋に足を踏み入れた。

彼の部屋は普段の人となりから考えると、驚くほどに片付いていた。いや、片付いていると言うより、無駄なものがないと言えばいいだろうか。

何の因果か彼の部屋はシグフェルズの自室と酷似していた。必要のない調度品は一切なく、寂しいと感じてしまうほどだ。
もっとも、ハロルドの場合はシェイアードに居る事が少ないこともある。

あるいはこの間までのシグフェルズのようにいつ居なくなってもいいように、だ。

「ほら、そんなとこに突っ立ってないで座った座った。で、わざわざシグがオレを訪ねて来るって何かあるに決まってる」

椅子をすすめながら唇を尖らせるハロルドを見て、シグフェルズは曖昧に笑った。
彼は自分より四つも上だと言うのに時折見せる表情は少年のようだ。

「何かというか……先ほど、枢機卿閣下が仰った護衛の理由が少し腑に落ちなかったので」

いくらアルノルドの息子と同年代だと言っても自分達を護衛につける理由としてはどうだろう。
ノルンも言っていたが、シグフェルズも疑問に感じていたのだ。

「猊下は勿論、ミシェル様やラファエル様のお考えなんてオレには分かんないもーん」

「……ハロルドさん」

椅子に座ったまま足を組み、駄々っ子のように頭の後ろに両手を添えたハロルドはとても『神の友』、『光の監視者』と呼ばれる異端審問官とは思えない。
呆れたように名を呼ぶシグフェルズに悪いと思いながらも、ハロルドは知らないふりを続けた。

護衛にノルンとシグフェルズを付けたのはミシェルの考えである。彼が咎の烙印を受けたことはミシェルも知っていた。

気休めにしかならないかもしれない。だが普段通りの生活をし、じっと考えるよりは何かやるべき事がある方が良い。心の整理をつけるためにも。

「ま、深く考えなくていいんでない?」

それをシグフェルズに言う必要はない。ハロルドはまあまあとシグフェルズを宥めてへらり、と笑ってみせた。




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あきゅろす。
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