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約の翼
望みであるなら
「はい。あなた方にはハロルドと共に猊下を護衛して頂きたいのです。行き先は王都アージェンスタイン、《学園》です」

教戒の総本山があるここは法都シェイアードであるが、アージェンスタインには教戒と並ぶ魔導師育成機関である学園が存在する。
教戒の魔導師が対悪魔、防御や治癒に特化しているに対し、学園は様々な選択肢が存在するらしい。

ノルンたちが使うバクルスを手掛ける魔具職人を多く輩出するのも学園である。
魔導師を育成する、という目的の一致から学園と教戒の仲は悪かった。

だが数年前、魔具職人協会のトップであり、現在は引退しているマイスター、《金剛石》コーラル・レイバスの仲立ちを得て和解した。

教皇アルノルド・ヴィオンと学園長クリス・ローゼンクロイツが旧知の仲であったことも、和解を早めた理由の一つだろう。

「何故見習いである私たちが選ばれたのですか?」

今までの話では自分たちがアルノルドの護衛をする理由が分からない。そのノルンの問いに答えたのはミシェルではなく、ラファエルだった。

「猊下にはご子息がいらっしゃいます。魔を操る才を持ち、聖人の力を秘める彼は学園の生徒なのです。猊下とは長らく疎遠になっていましたが、一度お会いしたいと言うのが猊下の御望みです。あなた方はご子息――マリウス様と年齢が近いですから」

アルノルドに子供がいるというのは初耳だ。しかし魔術の才と聖人の力を持っているとなると本来なら、教戒に属しているはず。
疎遠になっていた、との一言にその全てが集約されているのかもしれない。

ご子息という一言を聞いて、ノルンの脳裏に浮かんだのは一人の少年。聖霊祭の時、会ったことなどないはずなのに既知感を抱いたのだ。

ライトブラウンの髪に、深いエメラルドの瞳。整った、優しげな面差しをしていた。
それに、ハロルドはこう言っていたはずだ。学園の生徒だと。そして何より、彼からは自分やハロルドと同じ力を感じた。無論、それが“マリウス”であるかは分からないが、ノルンは確信に近いものを感じていた。

「引き受けてくださいますね?」

「それが猊下や枢機卿閣下、ミシェル様の御望みなら喜んで」

ノルンたちには断る理由もないし、断れるはずもない。微笑み、尋ねるミシェルにノルンとシグフェルズは頭を垂れた。



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