誓約の翼
いつも大真面目
ハロルドが言いたいことも分かる。シグフェルズの兄が契約したのはあのベリアル。
『炎の王』、『虚偽と詐術の貴公子』、『シオウル支配者』などいくつもの名で呼ばれる彼は、ルシファーの腹心であるベルゼブルに匹敵するほどの力を有している。
魂を解放するとしても絶望的に近い。聖人でもない人の身で、高位に属する悪魔や契約者を相手にするのは困難だ。
だからシグフェルズの様子がおかしかったのだと、ハロルドは言いたいのだろう。
確かにそうだ。だがノルンにはそれだけではない気がしてならない。
「……そう。ハロルドも心当たりがないなら構わない」
しかしハロルドが特に何も感じないのなら、もしかしたら自分の勘違いだったのかもしれない。
まだ少し納得出来ないところがあるが確証がない以上、それは何の意味もなさないのだ。
「あんなことがあったばかりで無理かもしれないけど、ノルンちゃんももう少し肩の力を抜いてもいいんでない? ずっと張り詰めたままだと疲れちゃうよ。ほら、オレみたいにさ」
ベリアルとの死闘はまるで別世界の出来事のようだった。いくら悪魔祓いだと言っても、高位に属する悪魔と相対することはほぼない。
彼らは滅多なことでは地獄から出てこないのだ。
だと言うのにまだ見習いのノルンが、大悪魔と呼ばれるベリアルと戦った。
シグフェルズやラケシスという名の少女もそうだが、よく生きていられたものである。
「ハロルドはいつも抜きっぱなしじゃない」
片目を瞑り、おどけたようにハロルドが言う。そんな彼を見て、ノルンは思わず苦笑した。ハロルドがやる時はやる人間とは知っている。
だが普段から力を抜きすぎなのだ。これで尊敬しろと言う方が無理である。
「そかな? いつも大真面目なんだけど」
「どの口が言うの、それ?」
「この口」
半分呆れ口調で言えば、ハロルドは自身の口を指した。これでノルンより五つ上だと言うのだから不思議である。
シグフェルズの方がずっとしっかりしているではないか。
このまま話しているとハロルドのペースに巻き込まれそうで怖い。
ノルンは投げやりに頷いた後、仕切りなおすように軽く咳払いをした。
「はいはい。で、シグと一緒にミシェル様からの話、聞かせてくれるんでしょう?」
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