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約の翼
謁見の間へ
猊下に会うと言っても本来なら一介の悪魔祓いが簡単に会えるものではないし、見習いであるノルンはもっての他だ。
物凄く時間が掛かる上に、いくつもの複雑な手続きが必要になる。アルトナ教徒や聖職者たちの前に姿を見せるのも夏の聖霊祭と冬の聖誕祭の二回だけ。

三十代という異例の若さで教皇の地位についたアルノルド・ヴィオンはとても三十六歳には見えぬほど若々しい。
恐らくは体内の精霊因子をコントロールすることで老いを止めているのだろうが、せいぜい二十代後半か半ばほどにしか見えない。

「会うって今から?」

「そっ、勿論ノルンちゃんも一緒にね」

あまりに突然のことに怪訝な顔になるノルンにハロルドはあくまで軽く言った。
アルノルドに一目置かれているとされるハロルドだけならまだ分かるが、自分が一緒とは一体何がどうなっている?

自分がいくら聖人とは言ってもただの見習いで、アルノルドを目にしたことすら数回だというのに。
それがいきなり会うと言われて驚かない方がおかしい。

「許可は?」

「その場で取る」

「は?」

さも当然とばかりに言うハロルドにノルンは開いた口が塞がらなかった。この数分で理解の範疇を超えることばかり起こる。
しかしノルンが目を白黒させているうちに、ハロルドは彼女の手を取って歩き出した。

「ハロルド!」

「大丈夫だって。そんなに心配することないから」

ノルンはそもそも教戒というものが好きではない。こんな力を持っているから、無理やり保護という名目でここに連れて来られた。
アルノルドがこの件と直接関係ないことは分かっている。

しかしそれでも彼は『教戒』のトップだ。どうしても一歩ひいてしまう。
当代最強と謳われる悪魔祓いで、様々な派閥があった聖職者たちを纏めるカリスマ性。素晴らしい、尊敬に値する人間だと思う。

だがそのこともあって、ノルンはアルノルドに何ともいえない複雑な気持ちを抱いていた。
ノルンを連れたハロルドは医務室を出て廊下を歩き、謁見の間へと向かう。

本来なら滅多な事では開かれることのない謁見の間の脇には聖騎士たちが控えていたが、ハロルドはそれを異端審問官の権限で黙らせる。
異端と疑わしき者を審問し、必要とあらば粛清の許可も与えられた彼らは教戒内でも恐れられていた。

一つ目の扉をくぐれば、一際大きな扉が見える。
金の縁取りに美しい彫刻が施された扉は見入ってしまうほどに見事だった。

そしてその扉の前に立つ人物を見てノルンは絶句した。光の帯のように広がる金色の髪に、透き通った水を思わせる碧眼。白の聖衣を纏い、女性にも男性にも見せる繊細な美貌を持つ人物はノルンを尋ねて来た青年――ミシェルだった。



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あきゅろす。
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