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約の翼
ハロルド・ファース
「誰?」

 突然目の前に現れた青年にノルンは不信感を露にする。同じ聖職者だから疑わないとか、彼女には皆無らしい。それに青年からは同じ匂いがする。言葉では表しがたい“何か”が同じなのだ。

「あれ? マラキ大司教から聞いてない? オレはハロルド。ハロルド・ファース。一応二人の講師、ってコト」

 青年――ハロルドの言葉にノルンは嗚呼、と思った。彼は間違いなく、ハロルド・ファースだ。この感じ、同じ聖人の力を持つ者だからこそ、何かを感じたのだ。
 思えば教皇アルノルド・ヴィオンと相対した時もこんな感じだったと思う。何分三、四年も前のことなので、分からなかったのも無理はないだろうが。

「そう。それで何か用?」

「冷た! ノルンちゃん、仮にも講師であるオレにそれはないんじゃない? これでも忙しんだよ、オレ」

 不満そうな声を漏らすハロルドも、黙っていれば美貌の神父で通るだろうに。確かに彼の言うことに偽りはないのだろう。
 “光の監視者”ハロルド・ファースは教皇直属の悪魔祓いにして異端審問官だ。本来なら見習いの講師をしている暇などないだろうにご苦労なものである。

「それは大変ね」

「ノルンちゃんはクールビューティだねぇ」

 感情の篭らぬ声で返せば、茶化しているのかハロルドは、お世辞にも笑えない一言を返して来る。本当ならハロルドに対して敬語でなければならないのだが、本人は全く気にしないようだ。
 ノルンにしてもその方が有り難い。何にしてもこれ以上、彼の茶番に付き合うのも勘弁だ。

「用件は?」

「それは勿論、“特別授業”について。シグ君にはもう話したけど、授業が終わった後、大聖堂前に集合ね。詳しいことはその時話すから」

 口調はそのままだが、がらりとハロルドの雰囲気が変わる。最初からそうしていればいいのに。きっとこれが本性なのだろう。普段はふざけた偽りの仮面を被っているようだが、実に食えない人間である。

「それじゃあ、私、行くから」

 時間を無駄にしたようで気分が悪い。無駄にしたと言っても特に用事もないのだが、用は気分の問題だ。 ノルンは用件を聞くと、さっさとハロルドの前から去った。背後から聞こえて来たハロルドの制止の声を無視して。



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あきゅろす。
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