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約の翼
教戒の狗
「親しいというか、私とシグは特別授業があるから」

ハロルドと仲が良いか、そう聞かれれば答えに困る。ただ彼が自分とシグフェルズの講師だから。
それ以上でも以下でもないはずだ。

ノルンが敬語でないのはただ面倒なだけで、ハロルドも咎めることがないから。
もっとも公の場では流石に敬語で接するが。何たってお堅いマラキ大司教にばれたら五月蝿いからである。

「そうなんですか。確かにお二人とも、将来を嘱望(しょくぼう)されてますしね」

ノルン、そしてシグフェルズは見習いの中でもっとも悪魔祓いに近いとされている。
悪魔祓いでも有数の腕利きであるハロルドが講師につくのも当然といえるだろう。
ノルンにとっては煩わしい限りだが、それしか道がないのもまた事実。

「でも確かに、正式な場で見るよりも気さくそうな人でしたね」

「気さくなだけじゃないだろ」

へえ、と呟いたラケシスにクロトも加わる。彼がハロルドを見る視線は僅かに警戒の色を含んでいた。
外面は人の良さそうな青年なのかもしれない。だが忘れてはならないのは、彼が異端審問官だということ。

下手をすれば自分やラケシスが異端の烙印を押されるかもしれない。異能の力を持つ自分達が。
だから警戒しなければならない。

ハロルド・ファースという青年はまず間違いなく、自分達が異端認定されれば躊躇いなく二人を狩るだろう。
恐らくは人好きのする笑みを浮かべたままで。

「その通り。へらへらはしてるけど、あれは間違いなく教戒の『狗』」

彼を教戒の狗と呼ぶのなら、ノルンも同じ穴の狢(むじな)なのかもしれない。
ハロルドはきっと与えられた命令に何の疑問も抱かず、任務を遂行するためだけに全力を注ぐのだろう。

しかし、ノルンはそこまで徹底してはいない。自分の意思まで押し殺してやらなければならないことなんてくそくらえだ。

シグフェルズのことだってそうだ。悠長に報告して返事を待ってなんかいられなかった。
シグフェルズが死ぬかもしれないのに。

たとえノルンが真実を話したとしても、直ぐに動いてはくれなかっただろう。
シグフェルズの兄が契約した悪魔が上級だと分かっていたから。腰抜けのじじいどもが動くはずがない。

瞬時に動ける悪魔祓いも限られているし、その中でも上級の悪魔に対抗出来る者たちは多くは無い。

「あの、ノルンさん。私たちももう行きますけど、今日はゆっくり休んでくださいね」

ぺこりをお辞儀をしながら部屋を辞したラケシスにノルンも軽く手を振る。
その様子をじっと見ていたクロトが低い声で言った。

「あんたのことは完全に信用したわけじゃない。けど少しくらいなら認めてやる。ラケシスが懐いてるからな」

言うなりクロトはノルンの返事すら聞かずに、先に部屋を出た彼女を追う。とても素直とは言えない少年の態度があまりに面白くて、ノルンは肩を揺らして笑った。



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あきゅろす。
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