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約の翼
ハロルド登場
「何か用、ハロルド?」

不機嫌そうな顔をするノルンが発した言葉に、ラケシスとクロトが驚いてハロルドを見る。
教戒の人間で彼の名を知らない者はいない。

ハロルド・ファース。光の監視者と謳われる悪魔祓いにして異端審問官。僅か二十一歳にして彼は優秀な司教として知られていた。
そしてそれだけでなく、彼はノルンと同じく聖人なのだ。慌てて礼をする二人にハロルドは困ったように笑った。慣れてはいるが、好きではない。そんな感じだろうか。

「そう畏まらなくていい。悪魔祓い見習い、ラケシス・オストヴァルド、クロト・フォルスター」

「は、はい」

二人はハロルドが自分たちの名前を知っていたことに驚いたらしい。知っていたのか、それとも調べたのか。

でなければ彼のような人物が一介の悪魔祓いの名を知っているはずがない。
恐縮するラケシスに対し、クロトはやや警戒しながら目の前の人間を見た。

「そんなに警戒しなくていいよ、フォルスター君。だよね? ノルンちゃん」

視線をクロトから外し、悪戯っぽく自分を見るハロルドにノルンは仏頂面のまま頷いた。
きっと彼にはお見通しなのだろう。異端審問官たる彼の心眼は生半可なものではない。

「高位の悪魔と戦ったね? それも随分な大物と」

ハロルドの声が剣呑な響きを帯びる。的確に事実を突いた言葉にラケシスが息を呑んだ。
そこまで知られている以上、隠し通すことは出来ない。
そう判断したノルンは、躊躇いがちに口を開いた。

「……ベリアル」

無価値を意味するその名が何を示すか知らないハロルドではない。その一言で十分だった。
魔王ルシファーに仕えるベルゼブル、アスタロトに継ぐ大悪魔。
かつて天使であった頃、熾天使の地位にあった彼が一番先に堕天した天使だといわれている。

「……運が良かった。ホントに」

ベリアル、その一言を聞いたハロルドは深いため息をついた後に呟いた。本当に運が良かった。
下手をすれば死んでいたのだ。いくらノルンが聖人とは言え、人間と悪魔では全てが違いすぎる。
力の器も、肉体の脆さも。それが分からぬノルンではないだろう。誰よりもそれを理解しているはずだ。



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あきゅろす。
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