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約の翼
礼服の女性
扉の向こうから現れたのは、黒い聖衣を纏った灰色の髪の少年――クロトだった。
やや不機嫌なのは自分一人、置き去りにされたからだろうか。
なんにせよノルンにはどうでもいいことであるため、何があったか聞ければそれでいい。

「それで、話してくれる?」

ラケシスが許してくれないため、ノルンは未だベッドに横になったままである。
ちらりと隣で眠るシグフェルズに目を向けるが、依然として瞼は閉じられたまま。

「あの後、拘束から逃れた俺はラケシスたちを追うことも出来ずにあの場にいた。それからしばらくして、いきなりあんたたちが現れたんだ。一人の女と共にな」

ラケシスの拘束魔術を何とか解いたクロトだったが、そこで手詰まりだった。二人を追おうにも彼には悪魔の結界を破る術はない。
だがラケシスが言うように先に帰るなど言語道断だ。

出来ることもなく右往左往していた時だ。突然、草原に三人が現れたのである。怪我はないようだったが、ノルンとシグフェルズは意識を失っていたし、ラケシスも気絶寸前だった。

「女って礼服を着た黒髪の?」

「ああ」

歳の頃は二十代だろうか。濡れ羽色の艶やかな髪に長い睫毛に縁取られたマラカイトグリーンの瞳は、本物の宝石より美しい。
貴婦人が身に纏う紺の礼服を身に付け、羽根と房飾りのついた帽子を乗せていた。

腰にはきらびやかな王冠をくくりつけ、驚いたことにヒトコブラクダに跨がっていたのだ。

「クロトが言うにはその時にはもう、傷も治ってたみたいです」

それだけでなく、聖衣まで元通りになっていた。血がついていることもなく、破れていることもない。
その女性が自分たちをベリアルから助け、傷も治してくれたのだろうか。

「ベリアルを退けるなんてただ者じゃない。同じ悪魔? それとも天使?」

ベリアルほどの悪魔を退けたとなるとよほど高位の悪魔か天使ということになる。
だが高位の天使が都合よく助けてくれるだろうか。悪魔にしても、わざわざベリアルから自分たちを助ける理由なんて考えられない。

「さあ? 禍々しい感じはしなかったけど、天使でもない気がする」

首を竦め、思い出すように言うクロトとノルンも同意見だった。悪魔にしては清らかであったが、それにしては天使のように聖気を纏っていることもない。考えても謎が深まるばかりで、分からないことが多過ぎる。



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あきゅろす。
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