[携帯モード] [URL送信]

約の翼
目覚めた後
意識が霞み行く中、何としてでも立ち上がらなければと思った。もうあんな光景は見たくない。誰かが悪魔に傷付けられるのは。あんな目にあうのは自分一人で十分だ。なのに体は思うように動いてくれず、力も入らない。力なんていらなかったはずなのに、今一番、無力であることが辛かった。
何よりも忌み嫌っていた力だったのに。意識が闇に堕ちて行く。ベリアルと彼から庇うように立ち塞がった美しい女性を一瞥した後、ノルンは意識を失った。


瞼を刺すのは眩しいくらいの光。そこでノルンの意識は浮上する。ゆっくりと目を開ければ、真っ白な天井が目に入った。
その瞬間、全てを思い出す。ベリアルとの死闘、床に倒れたまま動かないシグとラケシス。
弾かれるように身を起こそうとした時、横から伸びて来たか細い腕に押し留められる。

「まだ寝ていないと駄目ですよ」

同時に子供をあやすような優しい声が振ってきた。思わず顔を上げればそこにはラケシスがいる。
彼女の白い肌には一つの傷もなく、自分などよりずっと元気そうだ。

「ラケシス?」

「はい。お加減は如何ですか? ノルンさん」

名を呼べば彼女はふわりと微笑んだ。呼び方がアルレーゼさんからノルンさんに変わっていたが、不思議と嫌な感じはしない。
お加減は如何ですか、その一言でノルンは叫び声に近い声を上げた。

「シグは!?」

あれからどうなったのか少しも覚えていない。ベリアルと相対していた美しい女性。そこで自分の記憶は途切れていたから。

「大丈夫、ちゃんと横にいます」

促されて横を見やった。隣のベッドには静かに眠るシグフェルズの姿がある。
ラケシス同様、怪我は全て塞がっているらしい。

「あれからどのくらい……」

眠っていたのだろう。全身が重い、体に力が入らない。空腹は感じないが、時間の感覚がまるで戻っていなかった。

「ノルンさんは丸一日、眠っていたんです」

起き上がろうとするノルンをベッドに横たえながらラケシスは答える。

「あの後、どうなったのか教えてくれる?」

大人しく横になりながらもノルンは問うた。聞かなければならないと思った。
あの後、何が起こって自分達が助かったのかを。

「それなら俺が説明する」

唐突な声に続いて扉が開き、現れたのはクロトだった。



[次へ#]
[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!