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約の翼
悲壮なる決意
どうして、何故こんなことになってしまったんだろう。
何度そう思ったことか。しかし悔いても時は戻らない。死んだ者は生き返らない。

だが全てを諦めてしまうこともまた、シグフェルズには出来なかった。
だから彼は唯一生き残った償いをしようとした。契約者となった兄と差し違えることで、全てに決着を付けようとしたのだ。

何度悔い、何度運命を嘆いたことだろう。
三年前の自分は本当に“幸せ”だった。間違いなく。
なのにボタンを一つ掛け間違えたのか、ありとあらゆることが狂ってしまった。

あの頃は、何もない日常がこんなにも大切だと気付きもしなかったのだ。
何故なら三年前の自分たちにとってそれは“当たり前”のことだったのだから。
どうしようもなく歪んだものを、狂ってしまったものを正すには壊すしかない。

それはものであっても人であっても同じだ。
シグフェルズは怯える心を叱咤して、あらゆる感傷を凍らせて、バクルスを具現化させた。

「兄さん、僕は……」

時が止まったと錯覚させられる空間で銀色に光る、確かなもの。
嘘と偽りによって組み上げられた空間の中で、それだけは何の躊躇いもなく真実だと言えた。

ずっと罪悪感を抱えていきてきた。両親を救えなかったこと、兄を助けられなかったこと、ただ一人生き延びてしまったこと。
そのどれもがシグフェルズの責任ではない。

だがまだ十代も半ばの少年にとってそれは重すぎる枷だった。
心が壊れてもおかしくないというのに、シグフェルズは唯一残った兄を解放するために悪魔祓いの道を志した。

それを一瞬とはいえ、自分は忘れかけたのだ。
許されないことだと知りながら愚かにも夢想した。“彼女”の隣に立つ自分を。
人並みの幸せなんて望んではならない。この命は父と母、二人を犠牲にしたことで、今ここに存在しているのだから。

「僕は……貴方を解放(ころ)します」

そうすることでしか助けられないのなら。
そう、これが正しい、あるべき姿だったのだ。

退魔の杖を己に突き付ける琥珀色の髪をした少年。悲壮な決意を秘めたその表情に“彼”は笑った。
何も分かっていない。しかし、だからこそ面白いのだ。
人間というものは。何故疑おうとしない?
愚直なまでに信じようとする。お前が助けたいと願ったものなどほんの一欠けらしか残っていないというのに。



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