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約の翼
憂鬱な朝
 かつて女神アルトナは混沌の海より世界を創造した。
 神は全ての祖となる精霊因子から空、大地、海を創り、月と太陽と星を浮かべた。そして獣が生まれ、人が生まれた。

 僅か七日で創世を終えた女神は、最後に世界を創造して尚余りある秩序と混沌の力を聖なる柩に封じた。けして解けぬ戒めと共に。
 そうして作られた大地はこう呼ばれた。女神と精霊に祝福されし世界シルヴァニス、と。
 ――エルヴァ創世記 第一章一節『祝福されし地、シルヴァニス』より抜粋。


 教戒の朝は早い。日の出と共に起床し、礼拝堂で朝の祈りを捧げる。
次に掃除に洗濯、食事の用意と割り当てられた役割をこなしていく。

 ノルン・アルレーゼは未だ眠気眼のまま、モップを手にして廊下を掃除していた。
廊下と言っても教戒の敷地内であることから無駄に広い。それこそ何十人も行き交えるほどの広さだ。

 そんな所を掃除するというのだから当然、時間と手間がかかる。しかしこんな朝早くから駆り出されてやる気が出るはずがない。
少なくてもこの生活を続けてもう五年近くになるノルンにとってはそうだ。

「ねむ……」

 廊下のど真ん中で堂々と欠伸をする。もし誰かに見られていたのなら間違いなく懲罰ものだが、ここにいるのはノルンだけだ。
 掃除も早々に切り上げ、モップの柄の先に顎をついてもう一度欠伸をした。

 もう直ぐ朝食の時間だと思えば、嫌でも憂鬱になってくる。朝は食欲がわかないから本当は食べたくないのだが、ここ――教戒ではそういう訳にもいかないらしい。

 仕方ないので少しでも腹が減るように食前の運動でもしてみようと、持っていたモップをバクルスに見立てて振り上げる。
 モップは木の棒とは思えない速さで孤を描き、虚空を薙ぐ。絞りきっていなかった水分が飛び散るが、ノルンは気にもとめない。

 ふっと息を吐いて腹に力を入れると振り向き様にモップの柄を背後の人物に突き付けた。その動きは寸分のぶれもない。今まで眠そうにしていた少女と同一人物とは思えないくらいである。



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