[携帯モード] [URL送信]

約の翼
誤解され易い自分
どうして自分がこんな事をしなければならないのだろう。
正直なところ少し、いや、かなり後悔していたが、この際仕方ない。彼女の近くにいたのが自分だっただけだ。

突然倒れこんで来た少女の体をノルンは咄嗟に受け止めた。いくら少女が標準より軽いとは言え、意識を失った体は予想以上に重い。

だがそのまま投げ出すことも出来ずに、だが一人ではとても運べないので、仕方なくシグフェルズを連れて来て医務室に行くことにした。
面倒だったが、授業に飽きていたこともある。

少年は少女を医務室まで運ぶと授業に戻って行った。どこまでも真面目な人間である。

連れて来たはいいが、ノルンは少女の名前を知らないことに気付いた。
見覚えは辛うじてあると思う。確か名前は……駄目だ。やはり思い出せなかった。

何よりも目を引くのは左目の眼帯。隻眼なのだろうか。
愛らしい少女には明らかに不似合いである。

ベッドに横たえられた少女は未だ目を覚ます気配はない。ノルンが立ち上がろうとしたその時、少女が僅かに身じろぎをした。

「うぅん……」

閉じられていた右の瞳が露になった。しかしトパーズのように鮮やかな瞳はまだ焦点が合っていない。

「クロ……ト?」

少女が何か言葉を発した。途切れ途切れで聞き取れなかったが、人の名だろうか。
答えようにも自分は彼女が呼んだ人間ではないし、知り合いでもない。

「違う。私はノルン」

瞬間、少女の目が驚愕に見開かれる。何かおかしいことでも言っただろうか。
彼女の驚きようを理解できず、怪訝な顔をするノルンに少女はベッドから身を起こし、文字通り全力で謝った。

「す、すみません。わたし……」

「別に貴女は悪くない。わざわざ謝る事でもないから」

いきなり謝られてもノルンとしては困る。確かに面倒だったが、ここまで恐縮されれば怒る気も失せるというものだ。そんなノルンを見て少女は更に表情を硬くした。
シグフェルズはよく自分の態度は誤解を招き易いから、気をつけた方がいいと言われたのだが、もしや誤解を与えてしまったのだろうか。



[*前へ][次へ#]
[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!