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約の翼
失われたもの
この『力』は嫌い。だって見たくもない光景(もの)を見せられるから。自分ではとてもコントロール出来なくて、幼い頃はいつも泣いて過ごしていた。

死の影に怯えるわたしに手を差し伸べてくれたのはクロトだった。
大丈夫だから、そう言って手を握ってくれた。なのに彼が冷たい目で自分を見るようになったのはいつからだろう。
……父と母が死んでから。ううん、二人が悪魔に殺されてから。その時のことをわたしはよく覚えていない。唯一脳裏に残っているのは赤い赤い血だけ。



実習は何度やっても慣れることはない。逆効果だと分かっていても、いつも緊張してしまう。
しかも今日はラケシスの苦手な攻撃に関する魔術実習だった。
結果は言うまでもない。……最悪だ。

見本として皆の前で魔術を披露したのはラケシスが憧れる少女――ノルン。
純粋に凄いと思うのだ。自分は何をやってもどんくさいし、魔術だって上手く扱えない。

幼馴染であるクロトもそうなのだが、やはり同性だと感じ方が違う。
自分も彼女やクロトのように強ければ、自らの内に眠る力を制御することが出来るのだろうか。

何よりも恐ろしくて呪わしい力。オストヴァルドの一族が持つ特殊な力。ラケシスは一族の中で最も強く、前例のない力を始祖より受け継いだ。

誰かが言った。失われたものだからこそ美しいと。しかしラケシスにとっては違う。失われたもの全てが美しい訳じゃない。

この世から失われたものがラケシスを苦しめる。美しくなんてない。何よりも恐ろしいのだ。

「いた……」

俯いた直後、眼帯をしている左目が酷く痛んだ。助けを求めようにもクロトは別室にいるためそれは無理である。
それに今まではこんなこと無かったのに。

針で刺されるような痛みに意識が霞む。気を許せる相手もいないのに、ここで倒れては駄目だ。なのに周りの声が豪く遠くに聞こえる。誰かが耳元で何か言っている。だがそれを聞き取る前にラケシスの意識は闇に堕ちた。



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