誓約の翼
彼女のように
こんな自分でも誰かを守れるようになりたかった。だからわたしは悪魔祓いを志したんだ。
けど、わたしは本当に誰かを守れるかな? 救うことが出来るのかな?
怖いよ。でも臆病なわたしはもっと嫌い。彼女のようになりたいと思った。
紫掛かった銀色の髪を靡かせ、優雅なまでにバクルスを振るう少女、ノルン・アルレーゼのように。
少女はぼんやりと黒板に目を向けながら、ペンを走らせていた。
完全に上の空な様子であるが、しっかりと手は動いていることから考えると話を聞いていない訳ではないらしい。
そんな彼女の耳に終業を告げる鐘の音が届いた。慌てて腕の下のノートを見る。
どうやらまた手が無意識に動いていたようだ。ほっと一息ついた彼女に近付く人物が一人。
「またちゃんと聞いてなかっただろ、ラケシス」
年若い少年だった。年の頃は恐らく十代後半。
さらりと流れる灰色の髪にややつり目がちの瞳はアイスグリーン。
顔立ち自体はかなり整っているものの、どこかふてぶてしい、不敵な表情が似合う少年である。
見習いの悪魔祓いが纏う黒の聖衣に身を包んでいた。
「そ、そんなことない。クロトの気のせい……」
反論をしようとして失敗した彼女――ラケシスはクロトから視線を逸らした。
見た目はクロトと呼ばれた少年と同世代だろうが、実年齢よりやや幼く見える。
二の腕に届くくらいの薄紅色の髪を両サイド(側頭部辺り)で結わえ、後は肩に流していた。
瞳はトパーズを思わせる鮮やかな色をしていたが、見えているのは右目だけで左目は黒の眼帯に覆われている。
愛らしい顔立ちをしているが故に眼帯は随分と異質な印象を与えていた。
服装は少年と同じ黒の聖衣に首から下げた十字架は勿論、バクルスである。
「ノ、ノートは取ってるから大丈夫だよ」
「ならいい。……ほら、行くぞ。次は実習だ」
ラケシスはクロトに促されるように席を立つ。彼とは幼馴染であるが、何故ここまで自分の面倒を見てくれるのか彼女は知らない。
『でもきっと危なっかしくて、頼りないからだよね』
他に理由なんてないのだろう。何をやらせても不器用な自分を見かねてに決まってる。
魔術の素養があっただけでも驚くべきことなのに、それさえも上手く扱えない。
「早く」
「う、うん」
急かされるようにノートを片付けて彼を追う。しかし次の実習のことを考えれば気が重くなるばかりだった。
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