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の満月が昇る時
父祖の誓い
「アホくさ。この世の終わりまでやってろ。仲間内でやりあって自滅ってのはやめてくれよ。全っ然笑えねぇから」

「みんながみんな、あんなのじゃないんだけど……」

 ユーリの言う通りである。エリシアも怒りを通り越して呆れしか感じない。ギルドの皆が彼らのように言い争いをしている訳ではないのに、上がこれではいくら父が頑張っても意味がないのだ。

「いいこと思いついたのじゃ。ドンの椅子に流木を座らせておけばいいのじゃ。波にもまれた分だけ人生に苦労しておるから、ドンの貫禄たっぷりなのじゃ」

「……それは良い案だな」

 うんうんと頷き、とんでもないことを口走るパティに同意した声。それはユーリたちでも、ましてや揉めていた幹部たちでもない。新たに現れた人物。
 年の頃はレイヴンとそう変わらないだろう。金糸を思わせる髪に切れ長の瞳は灰色。端整で美しい顔立ちをした長身の男性だった。騎士を思わせる装束に、籠手と具足を身につけた彼は業ものらしき一振りの剣を携えている。
 彼こそドンの側近であり、獅子の咆哮の首領。そしてエリシアの父でもあるレオン・クレセントだった。

「と、父さん!」

「レオンってば、そんなこと言っちゃっていいわけ?」

「構わないだろう。どうせ、自分の足で歩けぬ者たちだ」

 おいおい、と言わんばかりのレイヴンにも、レオンは薄く笑って答えるだけだった。幹部たちは俯き、押し黙る。ドンの最後の言葉を思い出したのだろうか。ドンが残したものは、こんなくだらないものだったのか。
 そこへ、前に出たカロルが沈黙する彼らを見つめながら口を開いた。

「ボクはひとりじゃなんにもできないけど仲間がいてくれる。仲間が支えてくれるからなんだってできる。今だってちゃんと支えてくれている。なんでユニオンがそれじゃ駄目なのさ!?」

「カロル……」

「少年の言う通り、ギルドってのはお互いに助け合うのが身の上だったよなあ。無理に偉大な頭を戴かなくとも、やりようはあるんでないの?」

「かつてユニオン誓約を忘れたこの街は帝国に占領された。その過ちをまた繰り返すつもりなの?」

 ユニオンはもともと帝国を捨て、寄り集まった人々が作ったもの。ユニオン誓約にもあったではないか。我らの盾は友のため。我らの命は皆のため。ユニオンは助け合うためにあるのではないのか。
 ドンがいるからユニオンがあるのではない。ユニオンはドン一人のものにあらず。どうしていがみ合う? 手を取り合おうとしない? 皆でハリーを支えてやればいい。未熟だからどうだと言うのだ。
 これではかつてダングレストが帝国に占領された時と同じ。父祖の誓いを忘れてしまえば、また同じ過ちを繰り返してしまう。



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