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の満月が昇る時
しっかりしなきゃ
「なんか妙な雰囲気だな」

「うん……ユニオンは今、バラバラだから……」

「父さんも動いてはいるんだけど……」

 妙としか言いようがない雰囲気。やはり、ギスギスしていると言っていいかもしれない。
 ユーリの言葉にカロルが俯きながら答える。ドンの一件から、ユニオンはずっとバラバラだった。レオンが彼らを落ち着かせるために奔走しているが、やはり核となる者がいなければ纏まらない。
 ユニオンの中心となる人物。それが中々上手くいかなかった。ドンの後となると皆、尻込みするのだろう。誰も彼のようにはなれない。それが分かっているから。

「誰もドンの後釜に座りたくないのよ。なんせあのドンの後だからねえ。ほら、しゃんとしなって。レオンだって期待してんだから」

「オレはじいさんを死に追いやった張本人だ。そんなやつがドンみたいになれる訳がねえだろ。レオンもオレを買いかぶりすぎだ」

 ふう、とエリシアが息をついたところにハリーを連れたレイヴンが戻って来る。彼の後ろから現れたハリーは、憮然とした表情で一行から顔を逸らした。
 今の彼は完全に自信を失っている。もともと、ハリーはドンを尊敬すると同時にコンプレックスを抱いてもいた。結果としてドンを死に追いやる形になったことも、更に彼を追い詰めた理由の一つだろう。エリシアだって、父の考えが間違っているとは思わない。問題はハリー自身だ。

「誰もあのじいさんみたくなれなんて言ってねえでしょうが。跡目会議くらいちゃんと出とけって言ってんの」

「ハリーはどうやったってドンにはなれないよ。ハリーはハリーにしかなれないの」

 誰も彼にドンになれとは言っていない。いくら祖父と孫であっても、ドンはドン、ハリーはハリーだ。ドンの死後、ハリーは前にも増してユニオンに顔を出さなくなった。跡目会議にも出ようとしないし、エリシアやレイヴンを避けるようになっていたのだ。
 ハリーはハリーにしかなれない。エリシアの言葉にハリーは無言。何も言わずに俯いている。

「ねえあんた、ドンの聖核を譲って欲しいんだけど」

「リタ、いきなりそんな直球……」

 沈黙するハリーに、容赦なく声を掛けたのはリタだった。カロルが咎めるような視線を向けても、全く意に介さない。彼女にとってはドンの後継より、聖核の行方の方が重要なのだろう。
 
「……あれはドンの跡目継いだやつのもんだ。よその者にはやれねえよ」

「なによそれ。それじゃいつその跡目が決まるのよ」

 ドンの後を継ぐとすれば、ハリーしかいない。レオンも彼を認めている。後はハリーが覚悟を決めるだけなのだ。なのに、まだ踏ん切りがつかないのだろう。責めるようなリタの言葉にハリーは投げやり気味に答えた。知らねえよ、オレに聞かないでくれ、と。
 どうすればいい。どうすればハリーは覚悟を決めてくれるのだろう。

「ハリー!」

「五月蝿いな。エリシアには関係ないだろ」

「ったくしょうがねえな。ユニオンがしっかりしなきゃ誰がこの街を守るってんだよ」

 ハリーは聞きたくないとばかりに顔を背ける。関係なくはない。今の彼にはエリシアの声も届かないだろう。まったく耳が痛い限りである。いつまでも揉めてはいられない。
 呆れたようなユーリの言葉を聞いていた幹部が、視線をエリシアたちに向けた。暫く黙っていると、幹部たちの言い合いが始まったのだ。やれ迂闊だったやら、誰がユニオンを率いるやら、まったくくだらない。ここで内輪揉めしても何も変わらないというのに。



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あきゅろす。
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