金の満月が昇る時
中核となる者
ユーリの話によると、彼を助けてくれたのはデュークだったらしい。もっとも、彼は助けたことを認めず、宙の戒典のためだと言っていたようだが。
一行がダングレストに辿り着いた時には既に日は落ち、夜の帳がおりていた。とりあえず、レイヴンたちがいるであろうユニオン本部を目指していたのだが、どうせオレなんか! だろうか。叫びながらエリシアたちの前を青年が横切って行く。
黄色の髪に白い服を纏った彼はユーリたちにも見覚えがあり、エリシアがよく知る彼だった。
「ハリー?」
「確かドンの……孫だっけか」
「あーっ!! ユーリ!!」
あまりに一瞬の出来事で、走り去るハリーを見ていることしか出来ない。彼はドンの孫に当たる青年で、本人に悪気がなかったとは言え、一連の一件の引き金となった人物である。
彼自身は決して悪い人間ではないのだが、周りが悪かった。皆、ドンの孫ということで、必要以上に期待してしまう。そして彼もその期待に応えようとして空回りしてしまうのだ。
背後から掛けられた声に振り向けば、カロルとレイヴンの姿があった。二人とも、ユーリを見て驚きに目を見開いている。
「……ひどいよ。無事だったんなら一言くらい……」
「心配かけたな。でも戻ってきたぜ」
「おたくも良いしぶとさねぇ。さすが、俺様の見込んだ男。今度エリシアちゃん泣かせたら、おっさん許さないよ?」
「はいはい」
責めるような口調の少年に、ユーリは軽く笑って答える。もっとも、カロルも本気で非難している訳ではなく、ユーリの無事を喜ぶ気持ちが一番なのだろう。そんな彼を見て目を細めたのはレイヴンで。
声音こそふざけたものではあるが、最後は本気だろう。レイヴンはきっとエリシアを本当の娘のように思っている。過保護とまでは行かないが、実の父といい、中々に厄介そうだ。
「もう、レイヴンってば……」
「だって青年が消えてからのエリシアちゃん、痛々しくて見てられなかったからさぁ」
「……そ、それより、何かあったの? ハリーが走っていったけど」
レイヴンに改めて指摘されれば、申し訳ない気持ちで一杯である。痛々しい、そう言われては返す言葉がない。自覚はなかったのだが、やはり彼にはお見通しだったらしい。
このままだと話が変な方向に逸れそうな気がするので、どうにか話を元に戻そうと努力する。そんなことより今はハリーだ。走り去ったハリーの様子は尋常ではなかった。何かあったのだろうか。
「それがちょっとばかしうまくなくてねえ。いまユニオンは船頭不在だからねぇ」
「中核となるものがいないとまとまらない……というワケ?」
「んー……レオンはその器じゃないって辞退してるし、やっぱりねえ……」
言いづらそうに頭を掻きながら、レイヴンが答える。ユニオンが上手く行っていないのは、エリシアだって分かっていた。ただ、自分がダングレストを出る時はそこまで深刻な事態ではなかったはず。
ジュディスの言うように、今のユニオンには中核となる者がいない。レオンは器ではないと辞退しているし、他に薦めたい人物がいるらしい。レイヴンも大体の見当はついているのだが……。
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