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の満月が昇る時
ただいま
 ジュディスが怖いのかしら、と問うとエステルは無言で俯く。が、それも一瞬で、彼女は直ぐに顔を上げて首を振る。

「ううん。うれしいんです。まだ自分の力が役に立つかもしれないなんて。リタ。わたしに出来ることなら何でもいってください。そうですよね、エリィ?」

「うん、勿論。私たちの力で何かが出来るなら」

 この力は忌まわしいものだと、一度は絶望しかけた。けれど、自分たちの力で何かが出来るならやりたい。それにリタを信じなくて一体誰を信じるのだろう。
 少しでも可能性があるのなら、それに賭けたいと思うのだ。どの道、このまま何もしなければ、世界は星喰みの手に渡る。フェローに世界の毒と呼ばれたこの力で何かが出来るなら、やってみたい。

「で、具体的にどうするんだ?」

「まだ完全な方法まで出来上がってないの。もうちょっと時間をちょうだい」

 リタによると大体の考えは出来ているものの、まだ完全とは言い難いらしい。下手をすれば世界崩壊を早めてしまう危険がある。彼女が慎重になるのも当たり前だろう。

「んじゃあ、リタが考えてる間にオレたちはカロルたち迎えに行くか」

 エリシアは途中でアスピオに来たが、ダングレストはまだ大変に違いない。
 ギルド間の争いに、いつまでもユニオンの長を空位にはしておけないからだ。父やレイヴンらも奮闘してはいるが、一度ばらばらになった者たちを纏めるのは想像以上に難しい。

「あたしも行く。資料なら全部頭に入ってるし、考えまとまったら説明するわ」

「よし、じゃあ行くのじゃ」

 言うなり、リタは真っ先に家を出て行った。行動の速さは流石リタである。その後を追ってパティが駆け出し、ジュディスとエステル、ラピードも歩き出した。そしてエリシアとユーリも最後に家を出る。
 ユーリの隣を歩きながら、ちらりと彼の横顔を盗み見る。
 今でも夢を見ているようだ。ユーリはこうして自分の隣を歩いている。手を伸ばせば触れられるというのに。居なくなって分かった、実感出来た。彼が自分の中でどれほど大きな存在であったかを。

「エリィ? どうした?」

「え? あ、ごめん……!」

 ユーリの声にふと我に返れば、彼の服の裾を掴んでいた。自分では全く気づかなかったが、恥ずかしい。穴があったら入りたい。思わず手を離すと、彼が笑う。

「何で謝るんだよ」

「な、何となく……」

「俺はちゃんとここにいる。エリィの隣に」

「うん……。改めて。おかえり、ユーリ」

 反射的と言ってもいい。気恥ずかしさが勝ったのだ。俯くエリシアに、何を思ったのかユーリは彼女の手を掴んで引き寄せる。彼はちゃんと目の前にいるのだ。夢ではないと繋いだ手が教えてくれる。
 泣きそうになりながらもどうにか笑って、おかえり、と口にした。

「……ただいま、エリィ」



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