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の満月が昇る時
大事な話
「ご、ごめん……。そうだ、リタには会った?」

「……ついさっきな。まあ、リタはオレたちに気付いてなかったみたいだけどな」

「見事にスルーされたのじゃ」

「リタにも早く知らせてあげて。心配してたんだから」

 仲間たちの冷やかしに、思わずユーリから身を離した。二人きりではなく、皆もいることをすっかり忘れていたからだ。ほんの少しだけ残念そうな顔をしたユーリは、先程あったことを話してくれる。
 どうやら、リタはまた考えに夢中になるあまり、ユーリたちに気付かず家に戻ってきたらしい。実に彼女らしいのだが、それはそれで困るというもの。
 リタは殆どそれを表には出さないが、仲間たちと同じようにユーリの身を案じていた。皆とリタの元に行くと、

「ふんふん……やっぱりそうか、力場の安定係数の算出も十分可能ね。つまり……の応用で基幹術式もいけそう。変換効率はクリアね。非拡散の安定した循環構造体がこれで……」

「おい、リタ!」

 やはり本棚の前で考え事に勤しんでいた。エステルがリタ、と声を掛けても全く気づかない。正に自分の世界である。
 痺れを切らせたユーリが半ば叫びに近い声を上げた。そこでやっと気付いたのだろう。不機嫌そうに顔を上げた彼女はぽかんと口を開ける。

「なに!? 邪魔しないでくれる? って、え!? ちょっ、あんた……どうやって……っていうか」

「よう」

 未だ混乱するリタに、ユーリはよう、と片手を掲げてみせた。驚きに目を見開いていたリタの表情がどんどん変わっていく。それもそうだろう。一週間以上、行方が分からなかった彼が目の前にいるのだから。心配掛けたとまじめに謝るべきなのだろうが柄ではない。
 リタは睨むようにユーリを見据えると、怒鳴りつけんばかりの声でこう言った。

「この忙しい時にどこ行ってたのよ! だいたいあんだけ探して見つからなかったのに……」

「いやまあ悪かったよ」

「……ったく、まあいいわ。それどころじゃないし。エリシアとエステルに大事な話があるの。……エアルを抑制する方法が見つかったかもしれないの」

 悪かった、と言いつつも、あまり悪びれた様子はない。リタもそんな彼に呆れたのか、あるいは納得したのか、視線をユーリからエリシアとエステルに移した。
 リタがザウデへと向かった理由もまた、エアルを抑制する方法を見つけるため。そのために彼女は昼夜問わず、食事すら忘れて考え続けていたのだ。



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あきゅろす。
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