金の満月が昇る時
夢にまで見た人
翌日、リタは考えを纏めたいらしく、家を出て散歩に行っていた。どうやら、もう少しで何か掴めそうなのだという。エリシアはと言えば、掃除か料理しかする事がないので、少しでも家の中を整理することにする。
試しに開いて中を見てみるが、やはり魔導器関連は専門的過ぎて殆ど分からない。仕方なく、積み上がっていた本を本棚に片づけて行く。
しかし、片づけても片づけても、中々に本が減る気配はなかった。
「散らばってる本も全部専門書だし、やっぱりリタって凄い……。ふう……。リタ?」
どうにか一段落ついた頃、扉が開いた音がした。
入って来たのはやはり、リタである。何やらヒントを掴めたのか、腕を組みながら本棚の前を行ったり来たりしていた。こうなったリタは他人の言葉など耳に入らない。そっとしておくのが一番だ。
そう思い、再び片付けに戻ろうとした時だ。またも扉が開く音がする。客人だろうか。本はそのままに扉の前に行くと――夢にまで見た青年が立っていた。
「……ユーリ?」
「エリィ」
夢でも幻でもない。彼は確かに自分の前にいる。ユーリの後ろにはエステルにジュディス、パティの姿もあったが、今は彼しか目に入らなかった。
彼がはにかむようにエリシアの名を呼ぶ。何度夢に見ただろう。視界が涙でぼやける。ただ嬉しくて、とめどなく溢れてくる涙が頬を伝う。堪えきれなくなってユーリの胸に飛び込んだ。
「良かった。本当に良かった……。もう会えないかと……」
「……心配かけて悪かったな。ちゃんと生きてるよ。寂しかったか?」
「……うん」
「参ったな……」
寂しかったか、と聞かれ、素直に頷く。普段なら簡単に認めないけれど、今回ばかりは別だ。
寂しかった、辛かった。ユーリを前にして一気に感情の箍が外れたのかもしれない。まさかユーリも正直にそう返されるとは思わなかったのだろう。左腕でエリシアを抱いたまま、困ったように、照れたように右手で頭を掻いた。しっかりと抱きしめてくれる腕。彼が生きているという証にまた泣きそうになる。
「うちらの存在を忘れて貰っては困るのじゃ」
「あら、私たちの存在感はカサゴの擬態よりゼロかしら?」
そこにパティが呆れたような顔で言い、ジュディスはいつもと同じように微笑を浮かべている。ちなみにカサゴの擬態云々は、ユーリたちに気付かず走り去ったリタを見てパティが言った言葉だ。
「ここに来る間もユーリ、エリィのこと、ずっと気にしてたんですよ?」
「表には出していなかったけれどね」
「……エステルにもばれてる時点で意味ねえだろ」
確かにユーリはアスピオに来る前からずっと、エリシアのことが気になっていた。
しかし、表に出しているつもりなど全くなかったのに。エステルにまで気付かれていたとなると目も当てられない。そんなにもわかり易かったのだろうか。
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