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の満月が昇る時
生きてるからって
 エステルの話を聞いたユーリは呆れたように頭を掻いた。ヘラクレスに続いてザウデまで現れれば、ギルドが警戒するのも仕方のないことかもしれない。ただでさえアレクセイの無謀が起こった後だ。血の気が多いダングレストの人々である。抑えるにしても簡単ではないだろう。

「ヨーデルも悩んでるみたいです。フレンはフレンであちこち飛び回ってますし」

「みんな、頑張ってんだな」

「……ユーリがいなくても、自分たちにやれることをやろうって。きっと……きっと生きてるからって」

 ヨーデルやフレンも考えることが山ほどあるのだろう。これで終わりではないのだ。エリシアもリタたちも、レイヴンらもユーリがいない間、それぞれやるべきことをしている。
 ぽつりと呟いたユーリにエステルが俯き言葉を紡いだ。エステルの緑の瞳から涙が零れ落ちる。彼女が言うには、フレンも船で何度も自分を探してくれたらしい。皆にも散々心配を掛けたのだ。

「……心配かけたな。悪ぃ。お陰さんで、傷も全然だいじょうぶだぜ」

「でも今日はもう休んでください。今すぐ会いに行かなくても、リタたちもエリィもカロルたちも、きっとだいじょうぶですから」

「はっは。承知しましたよ」

 思わぬエステルの言葉にユーリは一瞬、驚いた顔になり、そして笑った。本当なら今すぐにでも顔を見せたかったが、彼女の言うことにも一理ある。ユーリの体もまた休息を必要としていた。
 二人は明日の朝、広場で落ち合うことを約束して別れた。



「リター! 夕御飯出来てるけど?」

 やはり父親なんだとエリシアは思う。ユーリのことで悩む自分を見かねて、父はアスピオに行くことを許してくれた(というか強制的に送り出された)
 ザウデへと向かったリタだったが、今はジュディスたちと別れてエアルを制御する術式を模索しているらしい。リタは研究に熱中すると食事も殆ど取らない。こうしてマメに作っているから食べるものの、放っておけばいつ食事をするのやら。何たって研究のためなら寝食を惜しまない彼女である。

「んー……?」

「だから夕御飯! 今日はちょっと頑張ってみたんだけど」

 こうやって話掛けても、殆ど聞いていない。部屋の中をうろつきながら、何やらぶつぶつと呟いている。あーでもない、こーでもないとリタは眉間に皺を寄せている。恐らくエリシアの言葉など聞いてもいないのだろう。手伝いたくても、リタほどの専門知識を持たない自分では無理だ。
 仕方なく揚げたてのコロッケを皿に乗せ、リタの目の前に差し出す。ぴくり、とリタの眉根が動く。香ばしい匂いにやっと気付いたらしい。
 しかし、それを素直に認めないのが彼女である。



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あきゅろす。
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