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の満月が昇る時
皆の行方
 今が夜だと言うことは見れば分かるが、自分はどのくらい、仲間たちの前から消えていたのだろう。デュークを追って外に出たユーリだが、聞き覚えのある声が聞こえた。市民街の方から、何やら話声が聞こえてくる。その声につられるように顔を上げると、一匹の犬と少女が階段の上からこちらを見ているではないか。
 視界に入ったのは下町に似つかわしくない薄紅色の髪の少女と隻眼の犬――エステルとラピードだった。見間違えるはずがない。彼女たちは一目散にこちらを目指して階段を駆け降りる。エステルは喜びのあまり驚くユーリの胸に飛び込んだ。

「ユーリ!」

「ワン!」

「いてて、おい、ちょっと」

「ユーリ、ユーリですよね、おばけじゃないですよね、ちゃんと影ありますよね」

 どうにか彼女を受け止め、落ち着かせようとするが、中々上手くいかない。エステルは涙ぐみながら、ユーリの存在を確かめるようにぺたぺたと体を触った。いつかフレンにもしたように。
 勿論、幽霊ではないので実体はちゃんとあるし、影もあるのだが。
 しかしながら、思いきり抱きつかれると刺された箇所が痛い。まだ治りきっていないのだろう。

「生きてる生きてる。だからちゃんと痛いってばよ」

「よかった、本当によかった……」

 心から安堵するエステルを見て、苦笑しつつ息を吐いた。自分がどれだけ仲間たちを心配させたのか、やっと分かったような気がする。
 ユーリは階段に腰を下ろし、エステルに治癒術で治療して貰う。闇の中に浮かび上がった淡い金色の光が傷口を癒していく。暖かい光が全身を包み込んだ。

「ラピードったらこんな時間に急に走り出すんですよ? もうびっくりしちゃいました」

「サンキュ、もう大丈夫だ」

「傷……やっぱりザウデから落ちたときのです?」

「ん? ああ、まあそんなとこだ」

 どうやら、先に気づいたのはラピードだったらしい。治療を終えたエステルもユーリの隣に腰を下ろし、ラピードも二人の前にちょこんと座った。やはり治癒術を使ってもらえば楽である。傷について尋ねるエステルに、ユーリは言葉を濁した。
 ソディアに刺されたなんて言えるはずがないし、言うつもりもない。これは自分が受けるべき罰でもあるのだから。フレンの隣に立てるような人物ではないのは知っている。光の下にいるべき彼に寄り添うことなど出来ないのだから。
 そして有り難いことに、エステルは人の言葉を疑う少女ではなかった。

「でもほんとによかったです」

「悪かった。心配かけたな」

「みんなも喜びます。早く伝えてあげたい」

 みんなも喜ぶ、その一言でまず思い出したのは、エリシアのことだった。彼女は泣いていないだろうか。それとも怒っているだろうか。
 彼女に会いたくてたまらない。自分は無事だと、真っ先に伝えたかった。そんな思いをどうにか押し留め、平静を装って問う。

「みんなはどうしてんだ?」

「リタはジュディスと一緒にザウデに行きました。古代の遺跡だから調べたいことが一杯あるんだって。パティもフィエルティア号の手入れをしながら手伝ってます。エリィはカロルやレイヴンと一緒にダングレストに戻ってます。エリィのお父様を手伝うために。……帝国とギルドの関係がまたよくないみたいなんです」

「ったく。まだそんなこといってんのか」

「ザウデのせいみたいですけど……それでギルドの人がまた無茶しないようにって」

 ザウデを調べたいというのは実にリタらしい。ユーリは苦笑しながら彼女の話を聞いていた。どうやらパティはリタたちと共にいるようで、エリシアたちはダングレストに戻っているのだという。



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