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の満月が昇る時
デュークの目的
「星喰みを招いた原因は人間にあり、彼らはその指導者であったという。償い……だったのだろう。そして僅かに生き残った満月の子が始祖の隷長と後の世界のあり方を取り決めた。帝国の皇帝家はその末裔だ」

「それが帝国の起こりって訳か。だからザウデの鍵となるその剣が皇帝の証になるんだな」

 デュークは淡々と満月の子について語った。彼が言うには満月の子らは古の人々の指導者であったという。
 しかし、人が星喰みを招いたことで、彼らは己の命を持ってその罪を償った。そして生き残った満月の子らは始祖の隷長と盟約のようなものを結んだのだという。本当に彼は一体何者なのだろうか。その事実は人が知るべきものではない。
 帝国が生き残った満月の子によって建国されたのなら、ザウデの鍵となる宙の戒典が帝国の至宝――皇帝の証となるのは当然だ。ユーリに背を向けていたデュークは、窓の外に視線を移して再び言葉を紡いだ。

「エアルを用いる限り星喰みには対抗できない。あれは、エアルから生まれたものなのだから」

「……あんたもあの星喰みを止めるつもりだった。だからエアルクレーネを鎮めて回ってた、違うか?」

 だからこそ、満月の子たちは己の命をもって星喰みを封じたのだろう。そしてデュークもまた星喰みを止めるつもりだったに違いない。そう尋ねれば彼はそうだ、と頷いた。

「なんで帝国やギルドに協力を求めなかったんだ? そうすればアレクセイを止めることだって出来たかもしれねぇ」

「私は始祖の隷長に身を寄せた。人間と関わり合うつもりはない。それに人間たちは決して纏まりはしないだろう」

 何故、帝国やギルドに協力を求めなかったのか、との問にデュークは素っ気ない言葉を返すだけだった。まるで自分が人間ではないような言い方ではないか。
 確かに帝国やギルドは簡単には纏まらないかもしれないが、一人の人間に一体何が出来るというのだろう。

「ならどうしようってんだ? 星喰みは古代文明だって手に負えなかったんだろ」

「方法はある」

「あんた、人間嫌いみたいだけど、オレたちだって人間だぜ? なんで宙の戒典を貸してくれた? なんで協力してくれたんだよ」

 デュークはただ一言答えると、踵を返し、部屋から出て行こうとする。ユーリはそんな彼の背に問い掛けた。デュークが何故、宙の戒典を持っているのかは分からない。
 人間嫌いらしい彼がどうして、人間である自分たちに力を貸してくれたのか。どうしても腑に落ちなかったのだ。

「おまえたちだけが敢えて始祖の隷長と対話を試みた。だから……いや、もはや終わったことだ」

「……なにをするつもりだ?」

「私は世界を、テルカ・リュミレースを守る」

 世界を守る。呟かれた一言はユーリにというより、己に言い聞かせるようなものだった。星喰みは古代文明でさえ手に負えなかった災厄である。去ろうとする彼を追おうと立ち上がるが、

「どういう……うぐっ」

 瞬間、腹部に鋭い痛みが走る。傷口が開いたのだろうか。思わず動きを止めた間にデュークは消えていた。急いで階段を駆け降りる。外に出た先にも、彼の姿はどこにもなかった。



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