金の満月が昇る時
帰ってきた彼
重力に従い落ちてゆく。抗いたくても体が動かない。ユーリが死ねば、仲間たちは、エリシアは泣くだろうか。泣かせたくない。そう思うのに体が急速に熱を失って冷えて行く。
オレもここまでか、意識が闇に沈む直前、何かが羽ばたく音を聞いたような気がした。
腹部を苛む鈍い痛みにユーリの意識は浮上する。ゆっくりと瞼を上げれば、見慣れた天井が目に入った。自分が寝ているのはザーフィアスにある自分の部屋のベッド。夜なのか辺りはほの暗く、窓から差し込む柔かな月の光が室内を照らしている。
「オレの部屋……か? なんで……。これほど恨まれてたとはな。く……」
痛みに顔をしかめ、半身を起こすと芋蔓式に全てを思い出す。ザウデでアレクセイを倒したまでは良かったが、ソディアに刺され、ザウデから落ちたのだ。
しかしながら自分が何故、この部屋にいるのかは分からない。未だ痛みの残る脇腹を押さえながら、ぽつりと呟く。
ソディアが自分をよく思っていないのは知っていた。敬愛するフレンの友人だということが気に入らなかったのだろう。だがまさか殺したいほど憎まれていたとは、流石のユーリも予想出来なかった。
その時、ベッドの上に見慣れない本があることに気づく。緑の表紙のそれを手にとると、『満月の子』の一文字が記されていた。
「……古代の指導者たちは生得の特殊な力を持っていた。彼らは満月の子と呼ばれた。ザウデは彼らの命と力とで世界を結界で包み込み、星喰みの脅威から救った」
本に書かれていたのはエリシアやエステルたちと同じ、満月の子についてのこと。ザウデ不落宮は満月の子の命で星喰みを封じていたのだろうか。
ユーリがページを捲ろうとした時、ふと何者かの気配を感じて振り返る。
「目が覚めたか」
「デューク……そうか、あんたが助けてくれたのか」
静かな声音で言ったのは、目の覚めるほどの美貌を持つ男。深紅の瞳に、やや癖のあるシルバーブロンドは暗闇の中でもほのかに輝いている。
これで全ての辻褄が合う。もし仲間たちが助けてくれたのなら、傷の治療がされていないはずがないし、自分のそばに誰もいないのはありえない。歩み寄ったデュークは、立て掛けてあった宙の戒典を手に取った。
「この剣を海に失う訳にはいかなかったからな」
「まあいいさ、それでも礼を言わせてもらう」
デュークが宙の戒典を手にした途端、暗い紫色をしていた刀身が鮮やかな赤に変わる。例え彼の目的が宙の戒典だとしても、ユーリが助けられたのは事実だ。
デュークはそれっきり背を向けたまま、口を開こうとはしない。ベッドに腰かけるユーリは、先程まで読んでいた本を一瞥し、佇むデュークに問うた。
「ザウデ不落宮は満月の子の命で動いてたのか?」
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