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の満月が昇る時
頑張らなくていい
 ユニオン本部への道を歩きながら、少し反省する。さっきは思わずレイヴンの前から逃げ出してしまったが、あれでは逆効果だ。余計に心配を掛けるだけだろう。
 心にぽっかりと穴が開いたようだった。ユーリがいない。その事実がエリシアを激しく打ちのめす。
 ザーフィアスで出会ってからずっと一緒に旅をしてきた。隣にいることが当たり前だった存在。アレクセイに捕らわれた時だって、こんなに長くは離れていなかった。

 分かっているのだ。レイヴンの言うように、ユーリを信じなければと思うのに不安になる。胸が痛くてたまらない。忙しく走り回っている時はまだいいのだ。ユーリのことを考えずにすむから。
 どうにか普段通り振舞おうとするけれど、父やレイヴン、もしかすれば獅子の咆哮の皆にも気付かれているかもしれない。どうにも上手く行かないものだ。

「エリシア」

 名を呼ばれて振り向けば、そこには父――レオンがいた。父も呼び出された帰りなのだろう。連日の忙しさに疲れていないはずがないのに、父の顔に疲労の色はない。普段通りだ。そんな所は流石ドンの側近とされた人物なのだろう。

「父さん。ちょうど良かった。報告に行こうと思ってたから」

「聞かずとも分かる」

 少しだけ笑みを浮かべてレオンは言った。聞かなくても分かる。それは父が自分を信頼してくれているということに他ならない。それが嬉しくて少しくすぐったい。
 いつだって彼の娘だと、自信をもって言えるような人間になりたいと思っていた。ハリーがドンに抱く複雑な感情とは少し違うかもしれない。それでもエリシアはエリシアで必死だったのだ。

「……最近、浮かない顔をしているな。『彼』のことか?」

「……うん。さっきもレイヴンに心配かけちゃった」

「あれのことは気にしなくていい。むしろもっとかけさせてやれ」

 彼が誰を指しているか分からぬエリシアではない。言うまでもなくユーリのことだ。父だってアレクセイのことがあったというのに、それを全く表には出さなかった。あるいは悟らせないだけだろうか。
 そう言うレオンの瞳はどこか怒ったような、呆れたようなものだった。それもそのはず。レイヴンは『シュヴァーン』のことでお叱りを受けたのである。アレクセイとは形が違えどレイヴンもまたレオンの友人だ。
 相当しぼられたらしく、ダングレストに帰ってきた一週間のレイヴンと言ったら、エリシアも気の毒に思うくらいやつれていた。

「あははは……。でもあんまり心配掛けるのは悪いし、頑張らなきゃって思うんだけど……」

「頑張らなくていい。お前はもう十分頑張っているだろう?」

「父さん……」

 レオンの手がエリシアの頭に乗せられる。何故だが急に泣きたくなった。自分でも気付かないうちに気を張っていたらしい。



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あきゅろす。
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