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の満月が昇る時
募る不安
 ユーリの行方が分からなくなって、一週間以上経っても彼は見つからなかった。フレンが騎士団の船でザウデ近海を捜索したが、何も見つけることが出来ずに日々は過ぎていく。その間に凛々の明星の皆も各々、すべきことのために別行動をとっていた。
 エリシアとレイヴン、カロルはダングレストへ戻り、リタはジュディスと共にザウデへ、パティもフィエルティア号の手入れをしながら二人を手伝っている。フレンはヨーデルと共に、再び悪化した帝国とギルドの関係を修復しようと奔走していた。エステルはラピードとザーフィアスへと戻ることになった。

 アレクセイがいなくなった今、彼女が狙われる心配はもうない。何の知らせもなく過ぎていく日々。エリシアはレイヴンやカロルとレオンの手伝いに追われていた。
 ダングレストでは帝国への不満に加え、ギルド同士のいざこざが頻繁に起きている。エリシアたちはその仲裁に借り出されていた。とてもレオン一人では回らないためだ。
 ドンを失った穴は大きい。ダングレストは未だその痛手から立ち直れずにいた。そこにアレクセイの謀反である。帝国への不平、不満が爆発し、ギルド間でいざこざが起きる。


「いい加減にして! ここで言い争って何になるの? ドンを失って焦るのは分かるけど、ドンが今、これを見たら何て言うと思う!? これからはてめぇの足で歩け、てめぇらの時代を拓くんだ。あの人はそう言ったはずでしょ。さあ、分かったら散って」

 言い争う男たちの間に割って入り、エリシアはそう一喝した。ドンという偉大なる人物、道標を失って焦り、不安になるのも分かる。ユニオンはドンという存在でもっていたようなものなのだ。
 しかし、だからと言って、その不安を表に出して何になる。少なくても大人のすることではない。もしドンが今、この状況を見ていたなら、呆れ果てただろう。ドンは最後にこう言ったはずだ。
 これからは自分たちの足で歩き、自分達の時代を拓くんだ、と。

 もっともな言葉に男たちはすごすごと、意気消沈したように街中に散っていった。騒動もおさまり、やっと一人になったところで、ふう、とため息をつく。毎日、こんなことの繰り返しだ。本当なら自分もリタたちについてザウデに行き、ユーリを探したかった。
 だが、自分に出来ることを考えた時、やはりこの答えしか浮かばなかったのである。それでも日に日に焦燥は募っていた。未だユーリは見付からない。皆が手を尽くして探しているというのに。それなのに自分は何故、こんなことをしているのだろう。考えて決めたはずなのに、苛立つ自分がいた。

「エリシアちゃん、そっちも終わったみたいだねえ。気持ちは分かるけど、あんまり思いつめない方がいいんでない? 青年を信じようや」

 後ろから掛けられた声にふと我に返る。聞き慣れた声の主は勿論、レイヴンだった。悩んでいることに気付いて、わざと明るい声で言ってくれているのだろう。

「……うん。私もね、分かってるよ。でもユーリを信じなきゃって思うのに不安になる。朝、目が覚めたら全部夢で、ユーリが呆れたように笑ってて、それで……」

「エリシアちゃん……」

 今、自分達にできるのはユーリの無事を祈り、信じる事。それは分かっている。分かっているが、不安でたまらないのだ。毎朝、目が覚めて思う。これは悪い夢でユーリが呆れたように笑うのだ。オレが死ぬわけねえだろ、と。

「……変なこと言ってごめんね。私なら大丈夫だから。それじゃ、先に戻ってるから」

 彼らに心配はかけられない。不安なのは皆一緒なのだ。自分だけ弱音を吐いてなどいられないだろう。レイヴンは優しい。このままだと甘えてしまう。
 けれど、それでは駄目なのだ。エリシアは一方的に話を切ると、何か言いたそうなレイヴンに背を向け、石畳を蹴った。



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