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の満月が昇る時
新月の夜に
 カドスの喉笛を出た一行は、無事ノードポリカにたどり着いた。街の中は拍子抜けするほど落ち着いていた。前の騒動を考えれば普通の警備だし、変わったところも見受けられない。何が起こっているのかは分からないが、今騒ぎを起こす訳にもいかないだろう。ならば今は出来ることをする。
 ベリウスに会えるのは新月の夜。つまり今夜だ。宿で一休みしたエリシアたちは夜になるのを待ち、ベリウスに会うべく、闘技場に足を踏み入れた。
 もう後には退けない、退くつもりもない、エリシアもエステルも。単刀直入に用件だけを告げたユーリに、ナッツは彼を見た後、エリシアに視線を向けた。

「エリシアに……あんたたちはたしか、ドン・ホワイトホースの使いだったかな」

「そそ。そゆワケだから通してもらいたいんだけど」

 軽い口調で言うレイヴンは、どう考えてもドンの使いには見えない。その上、天を射る矢の幹部にも見えないのだから、色々と都合が良さそうだが。

「そちらとエリシアは通っても良いが……他の者は控えてもらいたい」

「あたしらが信用できないっての?」

「申し訳ないがそういうことになる」

 ナッツは一行を見回した後、静かに言う。当然、納得できるはずもないし、遂に黙っていられなくなったリタが半ばけんか腰な口調で彼を睨みつける。
 信用出来ない。ここにいる者で素性がはっきりしているのはエリシアとレイヴンだけ。獅子の咆哮の首領、レオンの娘と、天を射る矢の幹部。いくら何でもギルドの人間で天を射る矢の幹部だと偽る者はいまい。
 信用出来ない者をベリウスに会わせる訳には行かない。それは分かるが、二人だけが会っても意味がない。

「口を開かないシャコガイよりうちらの方が信用できること、間違いないのじゃ」

「だから、パティの例えは分かりづらいの。あの、ナッツさん――」

 またまた分かりづらい例えを出してくるパティに、どうにかナッツを説得しようと顔を上げる。
 その刹那、ナッツが立つ扉の奥から低い、一瞬では性別を判断出来ない声が響いた。よい、皆通せ、と。どちらかと言うと女性のようだろうか。
 通せ、との一言にナッツは納得出来ないと扉を――その先にいるベリウスに視線を向けた。
 だが返って来たのは、良いというておる、との言葉だ。彼もそれ以上、逆らうつもりはないらしい。

「話が分かる統領じゃねぇか」

「……分かりました。くれぐれも中で見たことは、他言無用で願いたい。それが我がギルドの掟だ。この先に我が主ベリウスはいる」

「わかった。約束しよう」

 ナッツは頷いた後、扉の前から退ける。この先で見たことは他言無用に願いたいと言って。そんな掟があるなんてエリシアも初耳だ。
 ユーリに続き、仲間達も扉の中へと入って行く。最後に残ったエリシアはナッツに礼を言って扉の奥へと消えた。扉の先に広がっていたのは長い階段。そこには僅かな明かりがあるのみ。ひんやりとした空気に肌が粟立つような気がする。

「この先にベリウスが……」

「腹ぁくくったんだろ? 行こうぜ。相手は同じ人間だ。怖がることはねぇって。エリィは一人じゃねえんだからな」

 覚悟はしているが正直、少し怖い。思わず立ち止まったエリシアの肩をユーリが叩く。振り向けば、彼は片目を瞑って笑ってみせた。



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あきゅろす。
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