金の満月が昇る時
お約束
「私は悲しいのであ〜る」
「なぜに、栄えあるシュヴァーン隊の我らがフレン隊の手伝いなのだ!」
「ええい、文句を言うな! 悔しければ、結果を出すんだ」
ぶちぶちと文句を言い始めるアデコールとボッコスをルブランが一喝する。フレン隊では人数が足りないからと、急遽手伝わされることになったのだろうか。
その時、様子を窺っていたエリシアたちの後ろからやって来た気配。
反射的に後ろを振り向けば、数人の騎士たちが駆けて来る。お陰でルブランたちもこちらに気付いたようだ。そいつらを逃がすなとの騎士の声に、彼らの視線が自分たちに向く。
「む、おまえたちは、ユーリ・ローウェルとエリシア・フランベル! そ、それにエステリーゼ様!」
「訂正しておくけど、私はエリシア・クレセントだから」
「クレセントだと!?」
わなわなと体を震わせるルブランに、ユーリが緊張感のかけらもない声で、久しぶりだなと片手を上げる。
エリシアが名を訂正すると、アデコール、ボッコスは分かっていないようだったが、ルブランは違うらしい。流石にそこまで疎くはないということか。
獅子の咆哮の首領、レオン・クレセントの娘だと分かるはずだ。驚くルブランに、だから追いかけてこないでね、と釘を刺す。
そこでカロルが慌てた様子で、前と後ろを何度も見返した。背後から迫る騎士たちと前のルブランたち。前門の狼に後門の虎――はいくらなんでも言いすぎかもしれないが、どうにかした方がいい。
「しゃ〜ない!」
「おい、おっさん!」
「レイヴン?」
見兼ねたレイヴンが前に出る。何をしているんだと言わんばかりのユーリの声と、訝しげなエリシアの声を背に受けて息を吸い込んだ。
次の瞬間、彼は全員気を付け! と叫んだ。普段の彼より何倍も鋭いレイヴンの声。その声にルブランとアデコール、ボッコスが思わず敬礼をした。
よく分からないが、この機を逃すわけにはいかない。ユーリの声と同時に一行は、ルブランたちの脇を擦り抜ける。その間も彼らは、まるで石になったかのように動かなかった。
ルブランたちがそれに気づき、我に返ったのもつかの間。前方から来た――自分たちを追っていた騎士たちとぶつかってしまう。
「このチャンスを逃す手はないのじゃ」
「だな。一気にノードポリカに向かうぞ。で、さっき言ってた約束って何のことだ?」
「あ、それ私も気になる。どうせ、ろくでもないことだろうけど」
ユーリの隣に並ぶパティ。エリシアも少しスピードを上げて二人の横に並ぶ。ルブランたちに構っている暇などなかった。一刻も早くノードポリカに向かい、確かめなければ。
彼が言う約束というのは先程、パティとレイヴンが交わしたものだ。ろくでもないことなのは予想出来るが、内容までは分からない。
「ユーリとエリィ姐には特別に教えてやる。ここでがんばったら、ジュディ姐のスリーサイズを聞いてやるって言ったんじゃ。うちは何ならエリィ姐のも聞いてやるぞと言ったんじゃが、とっくに知ってるって返されたんじゃ」
「……おまえ……おっさんの使い方よくわかってんのな。それに、何でまたエリィのスリーサイズ知ってんだか」
パティの口から出た半ば予想していた、だがそれ以上の言葉に体の底から殺意が沸き上がって来るような気がした。何を知っているだって? 手が無意識に銃に伸びる。
呆れるユーリなど気にもとめず、エリシアは無言で後ろを走るレイヴンの方を振り向いた。満面の笑顔で。手には勿論、銀色の銃が握られている。三人の会話など知らない当人は不思議そうな顔をしていた。ただ、嫌な予感はしているようで、顔が若干ひきつっている。
出来るなら、ここで立ち止まってありったけの魔術を叩きこんでやりたい。
もし父がここにいればそれだけでは済まないのだ。そう考えて貰えば何てことないだろう。エリシアの攻撃などドンや父に比べれば天国ではないか。
「なに? どうしたのよ、エリシアちゃん?」
「いい度胸じゃない、レイヴン」
「なんで怒ってんの!? おっさん意味分かんないんだけど! とりあえず銃仕舞おう、な?」
レイヴンも訳が分からないながら、どうにか銃を納めさせようと必死である。が、そんなもので怒りがおさまるはずがない。
にっこりと、いっそ清々しいまでの笑顔で引き金を引いた。一切躊躇うことなく。迸(ほとばし)る眩い光。視界が白一色に染まる。
「問答無用!」
「ま、自業自得じゃの」
「だな」
勿論、レイヴンに同情する者は誰一人としていなかった。
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