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の満月が昇る時
見覚えのある三人
 珍しく真剣語る彼がエリシアには少しだけ意外だった。天を射る矢の幹部で、ドンからも一目置かれる人物なのは分かっているが、どうしても忘れてしまう。普段の彼を知っているから。
 おちゃらけていて適当で、でも本当にいざと言う時には頼りになる。初めて会った時から彼は不思議な存在だった。兄や父にはとても思えないし、呆れることだってある。それでも不思議と憎めないのだ。
 ユーリもとエリシア同じ意見らしい。僅かに目を細めてレイヴンを見る。が、それもつかの間、次の瞬間にはいつもの彼に戻っていた。

「問題は……フレンのやつがどこまで本気かってことだ」

「なに、ノードポリカに行けば色々と見えてくんでしょ」

 エステルもそうですね、と同意する。フレンがどこまで本気なのか分からないし、考えてもどうにもならないのだろう。ならばノードポリカへ向かえばいい。
 そうすれば様々なことが見えてくるはずだ。何にしろ、引き返すつもりはないし、今は進むしかない。

「でも警戒はしておいた方が良さそう。まさかノードポリカが武力制圧されてるって事はないと思うけど」

「そうなれば戦士の殿堂が黙っていないだろうし、騎士団も流石に表立って敵対することはないと思うけど」

 冷静に指摘するジュディスにエリシアも、考えを巡らせるように視線を洞窟の奥へと向ける。
 いくら戦士の殿堂がユニオンに加盟していない言え、武力制圧をされればドンだって黙っていないだろう。それは騎士団だってよく分かっているはず。
 ただ、ノードポリカへ向かう道を全て封鎖するなど正気の沙汰ではない。有効協定締結の真っ只中に、だ。これは裏切りと取られてもおかしくないのではないか。

「悪い。リタ。調査は手短にな」

 話をしている内にリタの目的地にたどり着いていた。ラーギィを追って足を踏み入れた時、エアルが暴走した場所――エアルクレーネである。
 リタは手短に返事をすると、早速調査を始めた。彼女の隣にエステルも並んでエアルクレーネを覗きこむ。緑色の結晶は暴走した時のように赤く染まると言うことはない。穏やかな光を発しているだけ。

「今は完全におさまってる……。一時はあんなに溢れてたのに。あれでエアルを制御したってこと? なんで魔物にそんなことが……」

「そのエアルクレーネはもう安全なんです?」

「エアルが定期的に噴出するなら、周囲に影響が出るはず」

 リタによると、前のようにいきなりエアルが噴出する心配はないらしい。問題は何故、急にエアルが噴き出したのかだ。自然現象ではないかと言うエステルに、その可能性は低いと答えた。
 もし彼女が言うようにエアルが定期的に噴出するのなら、周囲に変化が出ないはずがない。植物が異常に成長している訳でもなく、見た限りでは異常など見当たらなかった。

「ケーブ・モックみたいに植物が異常に成長している様子はないみたいだけど」

「だとすると、何かがエアルクレーネに干渉して、エアルを大量放出する……? でも、いったい何が……。エアルに干渉するなんて、術式か、魔導器くらいしか……」

 エリシアも辺りを見回すが、ケーブ・モックのように植物が成長している訳でもないし、異常は見当たらない。リタは呟きながら、いつも以上に真剣な顔で右手を顎に当て、考え込んでいる。
 だが時は彼女に考えさせてくれる時間を与えてはなくれなかった。複数の気配を感じたラピードが唸り声を上げる。それとほぼ同時に、微かに鎧の音だろう金属音が響く。

「ち。追っ手か。隊長に似てくそまじめな騎士共だぜ。リタ、いくぞ。調査は終わったんだろ?」

「考えをまとめるだけなら、あとでも出来ると思うけれど」

「むー……。ああもう!」

 そうしている間にも騎士たちの足音は近付いてくる。ジュディスの言うことは間違っていない。考えるだけなら後でも出来る。リタは遂に諦めたように声を上げ、仲間たちに続いて走り出した。
 洞窟内を進み、やっとノードポリカに繋がる出口まで来たのはよかった。騎士たちが見張りを外しているはずもなく、出口には数人の騎士がいる。

「まあ、当然ここも押さえてるわな」

「パティ、なんか突破するいいアイデアないの?」

「って、またあの人たち……」

 皆仲良く隠れながらレイヴンがやっぱりか、と声を上げた。強行突破するだけなら簡単だが、下手に騎士団とことを構えることは出来ない。
 一抹の期待を抱いてカロルがパティを見る。が、彼女は唸り声を上げただけだった。次にレイヴンの方を見たが、まじめな騎士に無体なことはしたくないからと断られる。
 視界に入った騎士にエリシアは見覚えがあった。ひょろっとした長身の騎士に背の低い寸胴な騎士、そして髭を生やした中年の騎士である。自分とユーリを執拗に追いかけていたルブランたちだった。



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