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の満月が昇る時
フレンの真意
「おいおい、おっさんを置いてくなよ!」

「なんだ、貴様ら! 待て!」

 待てと言われて待つはずがない。騎士たちの制止の声を振り切って駆けて行く。騎士の中にはあのソディアの姿もあった。ユーリの姿に気付いたソディアが声を上げるが、レイヴンとパティがばらまいた煙幕のお陰で視界はきかない。
 それからしばらく走った後、一行は洞窟内を歩いていた。ここまで来れば、すぐに追い付けないはずだ。敵の姿がないことを確認したユーリが口を開く。

「珍しく派手に動いたな、おっさん」

「せめて言って欲しかったんだけど」

 若干疲れたように言うのは勿論、エリシアである。こちらにだって心の準備というものがあるのだ。レイヴンがわざわざ言ってくれるような人物でないことは分かっているが。もし逃げ遅れて捕まれば洒落にならない。ソディアだっていたのだ。

「ごめんねぇ。俺様そこまで気が回らなくて。ま、パティちゃんの助言あってよ。これぞパティちゃんのブレインと俺様のテクニックの融合ってね。人間ご褒美があると、がんばれるって言うじゃない?」

「何よ、ご褒美って」

 謝る彼は正に口だけである。ブレインとテクニックの融合なんて誰も聞いちゃあいない。
 リタが半ば投げやり気味に言えば、よくぞ聞いてくれましたというように(リタからしてみれば)気持ち悪い笑みを浮かべた。

「ヒ・ミ・ツ。約束お願いね、パティちゃん♪」

「ヒ・ミ・ツ。なのじゃ☆」

 顔を見合わせたレイヴンとパティはにたりと笑う。それを見ていたリタがうざっ、とか何よ、あれ、とか言おうがお構いなしだ。
 ご褒美はきっとくだらないことに違いない。

「しっかし、こんな危険なとこまで封鎖してノードポリカを孤立状態にしようってんだから。連中、かなりマジ気みたいねぇ」

 カドスの喉笛は街道よりずっと危険なため、わざわざ通る物好きは少ない。そんな場所にまでも騎士を配置しているのだから、彼らが本気と言うレイヴンの言葉も頷けるというもの。
 カドスの喉笛まで封鎖するなど、普通ではない。ノードポリカで何が起こっているのか。ユニオンから苦情が出そうだが、どうなっているのだろう。戦士の殿堂はユニオンに加盟してはいないが、ギルドの一つであることには変わりない。
 すると、それまで考え込むように下を向いていたエステルが怖ず怖ずと自分の考えを口にした。

「フレンがこんなことをするとは思えません……」

「……フレンの意思とはまた違うんじゃない? 父さん見てて分かったんだけど、隊長って色々大変だろうし」

 エリシアもエステルと同じ意見だが、少し違う。確かにフレンがこんな指示を出すとは思えないが、彼も命令があれば従うしかないのだ。
 これは父であるレオンを見て思ったこと。人を纏める者は、自らの心だけで動いてはならない。首領と隊長では違うだろうが、命令に縛られる騎士なら板挟みになり、ずっと窮屈なはずだ。
 いくらフレンが隊長でも、騎士団長や隊長首席の命令とあらば、拒否することは許されない。

「そうなんだよねぇ。エリシアちゃんの言う通り。下までは指示が行き届かない、上からは理不尽な指令が来る。隊がでかくなって、偉くなると色々手が回んなくなるんじゃないかね」

「ずいぶん、物知りだな。さすが天を射る矢の一員ってか」

「組織なんてもなぁ、どこもそんなもんでしょ」



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あきゅろす。
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