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の満月が昇る時
喉笛封鎖
 洞窟の中を覗き込みながらエステルが呟く。フレン隊です、と。あれから一夜明け、マンタイクを出た一行はカドスの喉笛にいた。ノードポリカに戻るにはこの洞窟を通ることが一番の近道だ。
 だが、洞窟に入る途中ですれ違った商人から聞いた話は驚くべきものだった。カドスの喉笛は騎士団が封鎖しており、ここだけでなく山を越えるルート全てが封鎖されているという。
 彼は幸福の市場のメンバーで、帝国から免状を発行されており、国内を自由に行き来できるにも関わらず追い返されたらしい。

「うちらもマンタイクに戻って、のんびり待つか?」

 岩の間から顔を出したパティがのんびりとした口調で尋ねる。その後ろにいるレイヴンが顎に手を当て、うーんと唸り声を上げた。
 フレン隊がいるということは間違いなく、フレンの指示だろう。昨夜、ソディアがノードポリカの封鎖は完了したと言っていたこともある。
 ノードポリカと街に繋がるルート全てを封鎖するとは、よほど近づかせたくないのだろう。何のために?

「ここで足止め食うわけにゃいかねぇだろ」

「このままじゃ、確実にベリウスに会えないしね」

 ここで足止めを食うわけにはいかなかった。こんなところで足止めを食ってしまえば、ベリウスには会えない。新月はもうすぐなのだ。レイヴンはドンの手紙を渡せないし、エリシア達はフェローについて聞くことが出来ない。次の新月など待っていられるものか。
 とその時、様子を窺っていたカロルが訝しげに目を細めた。

「……あの魔物は何?」

「騎士団で飼い慣らしたってとこかね。これだけ大掛かりな作戦なら、やっぱ人魔戦争の黒幕って話と関係あるのかもねぇ」

 目の前に見えるのフレン隊の騎士と、明らかに魔物である。魔物まで飼い慣らして出してくるということは、レイヴンが言うようにベリウスが人魔戦争の黒幕という話と関係があるのかもしれない。
 この検問を抜けない限り、ノードポリカにはたどり着けない。
 パティがレイヴンの背中をつつくと何やら内緒話を始めたではないか。話を聞いている内にレイヴンの表情がにやけたものに変わっていく。

「嫌な予感しかしないんだけど……」

「……マジでか……!? やるやる! で? で? ……ゴメンゴメン。面白いじゃない」

 これはデジャヴとでもいうのだろうか。過去の経験からエリシアには分かる。多分、ろくでもないことだ。ユーリが大きな声を出すなと嗜めてもまったく悪びれる様子はない。
 面白いじゃない、と笑ったレイヴンは折り畳み式の弓を取り出すと矢を番え、弦を引き絞った。こういうのはどうよ? と。
 放たれた矢は唸りを上げて標的に向かう。魔物の体に当たった矢は激しい音を立てて爆発した。これには堪らず魔物も暴れ出す。

 戸惑う騎士たちは何が起こったのか分からずに戸惑うことしか出来ない。暴れる魔物を押さえ付けようとするが、人の力では無理がある。
 ジュディスの今よ、行きましょ、という一言にエリシアたちはレイヴンを放って走り出す。あのパティまでもだ。



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あきゅろす。
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