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の満月が昇る時
隣を歩きたい
「……本当はこのまま戻ろうと思ってた。ユーリはずるい。そうやって弱いところを人に見せないんだから」

 このまま何も知らないふりをして戻ることも出来た。だけど、名を呼ばれれば、出て行くしかない。木の後ろからゆっくりと前に出る。ユーリが何も言わなかったのは、きっと自分を思ってのことだろう。
 それが少し悲しくて、でも当然だ。それが彼なのだから。様子がおかしいことには気付いていた。彼が選んだ道はきっと辛く険しいもの。少しだっていい。彼の力になりたかったのだ。

 だが何も言わずに抜け出したということが、エリシアに声を掛けることを躊躇わせていた。
 自分の弱いところを見せないのに、彼は自分達を支えてくれる。例え悩み、迷っていてもそれを表に出さず、ユーリが自分達の支えとなってくれるように、ユーリの力になりたい。

「ま、そういう性分だからな」

 視線は未だ湖に向けたまま、ユーリは困ったように微笑んだ。それが罪だと分かっていながら手を下す。彼はきっと己が選んだ道を貫くためなら、フレンとでも剣を交えるだろう。
 ユーリがラゴウを手にかけた時、共に罪を背負うと決めた。ほんの少しでもいい、彼の重荷を取り去ってあげたいと願った。例え、自分に出来ることが僅かだとしても、何かしたいから。

「分かってる。ユーリがそんな人だって。でも私はユーリの隣を歩きたいの」

「エリィ……」

 ユーリの手を取って自分の手と重ねる。
 触れた手は少し冷たくて、でも重ねたところはほのかに暖かい。彼の隣を歩きたい。フレンのようには行かないけど、前でも後ろでもなくて、隣がいいのだ。


 真っ直ぐに自分を見つめてくるエリシアに、ユーリはただ彼女の名を呟くことしか出来ない。
 キュモールを殺しても何も感じなかった。いや、殺したというよりただ見ていただけだ。ラゴウの時はあんなに恐ろしかったというのに。
 殺されても文句も言えない人間であったが、それでも人の死は重い……はずなのに何も感じない。そんな自分が酷く滑稽で嫌悪感さえ抱く始末である。

 心配を掛けたくない、これ以上、彼女に重荷を背負わせたくない一心で宿屋を出た。なのにエリシアはそんなユーリをずるいという。どうやら彼女を少し侮っていたらしい。

「だから! 今度からは隠さずにちゃんと話して。私ばっかりユーリに頼るのは嫌だから」

「……分かった、降参だ。ったく、エリィはエステルよりタチ悪いよな」

「今頃気付いたの?」

 つとめて明るく笑うエリシアに、ユーリは参ったと空を仰いだ。それからしばらく、二人は言葉を交わすことなく湖を眺めていた。
 繋いだ手は暖かい。ラゴウを殺した時と同じ。伝わる熱が一人ではないと教えてくれる。願わくばこの手が離れることがないように。



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