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の満月が昇る時
因果応報
「はしゃぎすぎたな。キュモール。そろそろ舞台から降りてくんねぇかな」

「キ、キミごときが、ボクに剣を向けた罪は重いよ! ひ、ひーっ……!」

 弾き飛ばされた剣と自らの手を交互に見つめ、キュモールは驚愕の表情を浮かべた。元より隊長の地位を貴族の力で手に入れたと言っても過言ではない彼だ。
 自ら戦うことのなかったキュモールと、結界の外を旅して来たユーリ。実力に天と地ほどの差がある。
 氷の刃を突き付けられたような、冷たい瞳と声に耐え切れずに背を向け、一目散に走り出す。キュモールが逃げた先は、街の外れにある場所だった。

 その先は行き止まりになっており、流砂が見える。一心不乱に走り続けていたキュモールは流砂に気付いて足を止めた。全力で走ったためだろう。髪は汗で張り付き、ぜえぜえと息を切らしている。
 そんな彼の耳に、何者かが砂を踏み締める小さな音が届いた。恐る恐る振り返ると、そこには月明かりに白刃を曝した黒髪の青年の姿。
 ユーリはどこまでも静かだった。息さえ切れていない。

「ま、待て! ボクは悪くないんだ! これは命令なんだよ! 仕方なくなんだ!」

「だったら命令したやつを恨むんだな」

「ま、待て! こうしよう! ボクの権力でキミが犯した罪を帳消しにしてあげるよ! 騎士団に戻りたければ、そのように手はずもする! 金はたくさんある、金さえあれば、どんな望みでもかなえてあげられる。さあ! 望みを言ってごらん!」

 必死に自分は悪くないと言い訳を始めるキュモールを、ユーリはばっさりと切り捨てる。取り付く島もない、というのはこういうことだろう。見当違いも甚だしい。
 ぺらぺらと話し始めるキュモールに唇の端をつり上げる。所詮、相いれないのだ。そんなくだらないことなど望むものか。キュモールに望むのは……、

「オレがおまえに望むのはひとつだけだ」

「そ、それは何だい……?」

 その問いには答えず、無造作に一歩を踏み出した。ユーリから言い知れぬ何かを感じ、キュモールは媚るような笑みをはり付けたまま後ろに下がる。
 だが歩みは止まらない。

「や、やめろ……来るな! 近づくな、下民が! ボクは騎士団の隊長だよ! そして、いずれ騎士団長になるキュモール様だ!」

 ゆっくりと、だが着実にキュモールに近付いて行く。その気になれば、キュモールを切り捨てられる距離だ。ユーリが剣を振るうことはない。
 しかし、青年から噴き出す研ぎ澄まされた刃のような殺気にキュモールは足を踏み外し、流砂に落ちる。

「うわあああああっ! た、頼む! 助けてくれ! ゆ、許してくれ! このままでは! こ、このままではっ!」

「おまえはその言葉を、今まで何度聞いてきた?」

 キュモールの体が徐々に砂に沈んで行く。ユーリはそれを冷たい目で見つめていた。
 許してくれ? 何度懇願を無視し、人々の命を踏みにじっておきながら、自分だけ助かろうとは、なんて醜いのだろう。身も凍るような声にキュモールはびくりと体を強張らせる。
 その場に絶叫が響き渡る。ユーリが無表情に見下ろす中、キュモールの体はじわじわと砂の海に沈み、二度と浮かんではこなかった。



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