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の満月が昇る時
自分のやり方
 皆が寝静まった深夜。ユーリは静かにベッドから起き上がった。床に寝そべっていたラピードの耳がぴくり、と動く。
 だがユーリであることを気付いていた彼は目を閉じたまま。仲間たちは皆、健やかな寝息を立てており、誰一人として目覚める様子はない。ベッドの側に立てかけてあった剣を手に取った後立ち上がり、右の手の平をじっと見つめぽつりと呟く。

「オレはオレのやり方で……か」

 呟いた後、ユーリは少し離れた場所で眠るエリシアに近付いた。よほど深く眠っているのか、起きる気配はない。当然といえば当然かもしれない。
 満月の子、そし始祖の隷長。エリシアやエステルが命を狙われる理由。
 エステルの手前、明るく振る舞ってはいたが、彼女だって不安だったはずだ。それを表に出さないのは、彼女が獅子の咆哮の首領の娘として育てられたからなのかもしれない。

「……先に謝っとく。すまねえ、エリィ」

 ラゴウをこの手に掛けた時、エリシアは共に罪を背負うと言ってくれた。それでもこれ以上、彼女に重荷を背負わせたくないのだ。元より、ユーリ一人が負うべき罪、そして罰だから。赦してくれるだろうが、それに甘えてはならない。
 ユーリは眠ったままの彼女に背を向け、宿屋を出た。夜半であるため街中に人の姿はなかった。照明はないが、月と星の光が辺りを照らしている。


 街中を歩くユーリの足は重い。今更、何を躊躇うことがある。きっとあの親友は間違っていると、険しい表情で自分を責めるだろう。金色の少女はまた自分せいで涙を流すかもしれない。
 けれど、自分はもう選んでしまったのだ。例えそれが間違っているのだとしても、それがユーリが選んだ道、ユーリのやり方。向かった先は騎士団の詰所である。

「キュモール」

「キ、キ、キミ! いや! 貴様はユーリ! な、なんで、ここに!」

 普段よりいくばか低い声で、目の前の存在に呼び掛けるが返事はない。次に彼――キュモールが寝ているベッドを容赦なく蹴り飛ばした。予想もしない衝撃にキュモールが飛び起きる。
 目の前にいるのがユーリだと気付き、彼の手に抜き身の剣が握られているのを見たキュモールは、ベッドから転げ落ちた。それをどこまでも冷たい眼差しで見つめるユーリ。もしここに仲間たちがいたのなら、大層驚いたことだろう。

「誰か! 誰かいないのかいっ! ここの貴族のボクと、剣でやろうっていうのかい? い、いいよ、受けて立とう」

 転げ落ちながらもキュモールは剣を取るが、ユーリが剣を無造作に一閃する。
 するとそれは呆気なく弾き飛ばされ、部屋の隅に転がった。詰め所にいた見張りはユーリが気絶させたため、キュモールの声に応える者はいない。



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