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の満月が昇る時
出来る子
 キュモールが言う、翼のある強大な魔物というのはフェローに間違いないだろう。
 フェローを捕まえて何をするつもりか知らないが、ろくなことではないのは確かだ。エステルが耐えかねて飛び出そうとするが、慌ててそれを止める。

「今は出ていかない方がいいんじゃないかな」

「あのバカ、お姫様のいうことも聞きゃあしねぇしな」

 そこにユーリも呆れ顔で同意する。現にカルボクラムで自分達が捕らえられた時だって、エステルの話を聞こうとしなかったのだ。彼女が出て行ったところでどうにもならない。むしろ連れ戻そうとされるだけだ。
 しかしエステルの方は納得いかないらしい。人々が砂漠に連れて行かれるのを見ていられないのだろう。勿論それはやエリシアユーリ、仲間たちだって同じだ。そこで、ユーリはカロルにこっちへ来いと手招きをする。

 なにやらとんでもないことを吹き込まれているらしい。怪訝な顔になるカロルは次の瞬間、諦めたような顔になった。何故なら、それに必要なものをジュディスが笑顔で持っていたからだ。

「ええ、準備は出来てるわよ」

「流石ジュディ。準備がいいというか……」

 彼女が持っているのはどこをどう見てもレンチである。ジュディスは散歩が好きで物をよく拾ってくるのだ。あまりの準備のよさにエリシアも呆れ半分、尊敬半分といったところか。持っているのがレンチでも様になるのだから驚きである。
 むしろ美人は何を持っても似合うのだと気づいたくらいだ。それこそ、白骨化した手だって。このレンチ、どこから拾ってきたのか不明だが、この際考えない方がいいだろう。

「危なかったら……助けてよ?」

「うん、任せといて。行ってらっしゃい、カロル」

「ともあれ、少年の活躍に期待しようじゃない」

 カロルはこっそりと馬車に近付いていく。キュモールを始めとした騎士たちは少年の存在に気付かない。
 レイヴンが面白がっている間にも、街の人々は馬車に乗せられ、遂にはキュモールは騎士も難癖をつけて馬車に押し込んだ。

「カロル……」

「大丈夫よ。できる子よ、あの子は」

 祈るように手を組むエステルに、ジュディスが微笑む。カロルはまだ十二歳だというのに、知識は豊富だし、頼りになるところだってあるのだ。少しずつでも彼は成長している。魔狩りの剣に属していた頃のカロルではない。
 異変を感じたパティがうむむ、と唸ったその時、突然馬車の車輪が外れ、キュモールが何やら喚き散らしている。

「何してるんだ!? 馬車を準備したのは誰!? きーっ!! 馬車を直せ! この責任は問うからね!」



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あきゅろす。
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