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の満月が昇る時
暴政を挫く
 誰にでも一つくらい、譲れないものがある。それは信念や掟など、人によって違うのが当たり前だ。“彼”は全てを納得した上で手を汚す道を選んだ。また“彼”はまだ、善悪の区切りを付けられないでいる。“彼女”は己の力と必死に向き合おうとしている。
 では自分はどうだろう? 彼と共に罪を背負う覚悟はある。例え誰もが彼を許さないと言っても、せめて自分だけは彼を赦そう。もし、その時が来たら私は――。


「はぁ〜……やっと帰ってきた。砂漠はもうこりごりだわ……」

 暑さとその他もろもろでうんざりしているリタに、隣のカロルもうんうんと同意する。ヨームゲンを出発した一行は、もときた道を戻り、遂にマンタイクに戻って来た。砂漠とは打って変わって爽やかな風が皆の頬を撫でる。

 街を出る前は外出禁止令が出ていたというのに、出口近くに止められた馬車の近くには、住民とそれを取り囲む騎士たちの姿が見えた。
 住民を囲む騎士の中にいる派手な男。長い薄紫の髪に化粧を施した顔。そこにいたのは間違いなくキュモールだった。リタが思わず駆け出しそうになるが、レイヴンその手を掴んで止める。

「急いてはことをし損じるよ」

「うむ、ここは慎重に様子見なのじゃ」

「ほらほら、早く乗りな。楽しい旅に連れてってあげるんだ、ね? 翼のある強大な魔物を殺して死骸を持ってくれば、お金はやるよ。そうしたら、子供ともども楽な生活が送れるんだよ。乗れって言ってんだろう、下民どもめ! さっさと行っちゃえ!」」

 幸い、キュモールの方は自分たちに気付いていないようだ。そうしている間にも、騎士たちは住民たちを次々に馬車へと乗せて行く。半ば強引に馬車に乗せようとしているキュモールに、夫婦らしい二人が必死で許しを請う。
 だが彼は、くだらないとでも言うようにふん、と鼻で笑っただけだった。二人の懇願も虚しく、彼らは騎士たちによって馬車へと入って行く。それを離れた場所から見ていたアルフとライラの両親は小刻みに震えながら呟いた。

「私たちもあんなふうに、砂漠で放り出されたんです」

「酷い……」

 にやつきながら住民たちを馬車に乗せるキュモール。エリシアは自分でも気付かない内に拳を震わせていた。訓練も受けていない彼らが魔物を倒せるとは思えない。何の準備もなく砂漠へ向かえば、彼らが命を落とすのは分かりきっているではないか。



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