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の満月が昇る時
まどろみの中で
『私、絶対父さんみたいに強くなるから!』

 それが幼い頃の私の口癖だった。皆を率いて戦う父の姿は本当にかっこよくて、自分もいつかは強くなって父の役に立ちたかった。
 わざわざ銃や術を選んだのも非力な自分の弱点を補うため。旅に出るまでは、空いた時間を見つけては毎日のように稽古をつけて貰っていた。

 思えば父とはもう一年近くも会っていない。ザーフィアスへの用事も父のギルドのメンバーから聞いただけであるし。
 自分はあの頃から強くなれたのだろうか。父と並ぶまでとは到底行かない。だけどそう、背中を追うぐらい出来ているとエリシアは思う。




 何だか騒がしい。
 半ば覚醒しつつある意識の中でエリシアの耳は言い争う男女の声を捉えた。

「ユーリ! 女の子の顔をそんなにまじまじと覗き込んじゃいけませんよ」

「はいはい、分かってるって。にしてもまだ目、覚めないのな」

 このまま眠りたい衝動に駆られたが、意を決して重い瞼を上げる。誰かが自分の顔を覗き込んでいた。ただ逆光に遮られて表情までは分からない。
 半分寝ぼけた意識では正常な判別すら出来なかった。

「お、起きたか?」

 その声でやっと頭が覚醒し、目が慣れたようで自分を覗き込んでいた人物が誰だか分かった。ユーリである。
 それと同時に自分の頭が何か柔らかいものの上に乗っていることに気付く。
 起き上がろうとすると、後ろから出て来たエステルの手に止められた。

「駄目です。まだ横になっていないと。エリィ、倒れたんですよ」

 どうやら柔らかいものはエステルの膝だったらしい。
 倒れた、との言葉で初めて、自分は倒れたのだと理解した。そう言われれば、気分が悪くなって……。その先は思い出せない。

「ん、ありがとう、エステル。でも私は大丈夫」

「駄目です! もう少し休みましょう! ねえ、ユーリ」

 こんな所は結構強引なエステルらしいと思う。実を言えばまだ少し気分が悪かった。
 エステルに話を振られたユーリもまた同意する。

「だな。もう少し休んでいいと思うぞ」

「……じゃあ五分だけ」

 そこまで言われるなら、お言葉に甘えて休ませて貰うことにする。眠ってしまわないように軽く目を閉じた。



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